コラム5 – 抗生物質は腸内細菌の大敵

抗生物質の発見は医学の分野で20世紀最大の成果のひとつだ。1928年のペニシリンの発見で、それまで不治の病とされた感染症の多くが治療可能となり、多くの人命を救った。その後、次々に発見された抗生物質が新たな病気の治療に使われている。

抗生物質の発見自体は人類への大きな福音だが、現代は抗生物質の過剰使用が問題にされている時代でもある。抗生物質の効かない耐性菌の出現はそのひとつだが、腸内細菌にとっては抗生物質の使用で腸内細菌叢が激変してしまうことにもつながる。

『The GOOD GUT』の著者、スタンフォード大のソネンバーグさんの同僚2人がシプロフロクサシンと呼ばれる、ごくありふれた抗生物質の治療が腸内細菌にどう影響するかを調べたところ、治療開始直後から患者の腸内細菌の数は10分の1から100分の1に激減し、細菌の種類も25%から50%の菌が死滅してしまったという。数週間後、患者1人の細菌叢はほぼ元通りになったが、残る2人のうち1人は症状が回復しても抗生物質の影響が腸内にはっきり確認でき、残る1人は治療が終わって2ヶ月経っても細菌叢が回復しなかったという。さらに同じ抗生物質による2回目の治療では腸内細菌への影響がさらに大きかったという。ソネンバーグさんは「抗生物質の恩恵は計り知れないが、腸内細菌への影響を事前に予測することは不可能だ」と述べ、専門家としては抗生物質の使用を慎重にすべきだという意見を明らかにしている。

「便移植」のところで紹介したクロストリジウム・ディフィシル感染症も抗生物質の乱用が関係している可能性が高い。今後の研究で、抗生物質の使用と腸内細菌叢の乱れ、その乱れが関係する健康への影響がはっきりしてくると抗生物質の使用法や是非についても新たな議論が巻き起きる可能性がある。