健康の鍵は腸内細菌が握っている——「腸内サミット」レポート
2016年10月21日にアイセイ薬局主催で開催された「腸内サミット」にて、一般向けに腸内細菌叢をより深く知ってもらうためのセミナーが開催されました。今回、参加者がセミナーの内容について記事を書いてくださいました!
腸内細菌と賢く付きあいたい
「腸内細菌叢」や「腸内フローラ」という言葉を耳にすることが増えた。大腸には100兆から500兆個もの細菌が棲んでいて、その重量は1キロから1.5キロにものぼるという。多種多様で膨大な数の細菌が作る複雑な生態系のことを「腸内細菌叢」や「腸内フローラ」とよぶ。
お腹の中に、1キロを超える菌。正直、あまり気持ちのよい話ではない。気持ちよくはないが、生命を維持するうえで菌が重要な役割を担っているのは紛れもない事実だ。どうせ付きあうなら、良好な関係を保っておきたい。
というわけで、腸内細菌と健康について学ぶべく、「腸内サミット」という講演にお邪魔した。
腸内環境と健康はこんなに関係している
腸内環境と病気との関係が明らかになりつつある。関連性がはっきりしているものには、たとえば以下があげられるそうだ。
- 便秘や下痢
- 大腸がん
- メンタルヘルス
- 糖尿病
- 肌の調子
- 肥満
ほかにも認知症との関連が指摘されているし、パーキンソン病とも関わりがあるらしい。
腸内細菌が代謝機能の調整に大きく関わっているというのは、特に興味深い。いまや国民病といわれる糖尿病が腸内環境を整えることで改善するとしたら、多くの人が恩恵を受けるだろう。
便秘も肥満も腸内環境の乱れが原因
便秘がちであることと太りやすさの関連は、誰もが感じているのではないだろうか。これまでわたしは、便秘になると太りやすくなるのだと思っていた。つまり、このふたつを原因と結果のように捉えていた。
ところが実際には、どちらも腸内環境の乱れによって引き起こされた結果である。便秘にも肥満にも、腸内環境が大きく関わっているのだ。その鍵となるのが「短鎖脂肪酸」だ。
短鎖脂肪酸のうち、プロピオン酸、酪酸、酢酸の3種類は、腸内細菌によって大腸でつくられる。これらの短鎖脂肪酸が、健康に寄与する「天然の薬」なのだとか。
短鎖脂肪酸の働きは、つぎのとおり。
- 蠕動運動をおこして便通を良好に
- 免疫系を調整
- 腸の炎症を修復
- 交感神経に作用し、代謝を上げる(→痩せる)
- 全身の脂肪細胞に作用し、脂肪の蓄積を抑制
つまり、腸内環境が乱れて充分な短鎖脂肪酸がつくられていないと、便秘(や下痢)になるし、代謝も落ちるし風邪を引きやすくもなる。
ならば、短鎖脂肪酸がたくさんつくられる腸内環境を維持することが、健康への近道ということになる。そして短鎖脂肪酸をつくるのは、腸内細菌のうち日和見菌と呼ばれるものだ。
日和見菌を味方につけよう
腸内細菌は大きく分けて、善玉菌(有用菌)、悪玉菌、日和見菌の3種類がある。これらの菌の比率は、善玉菌:悪玉菌:日和見菌=2:1:7が理想らしい。
これまでわたしは、次のように認識していた。日和見菌は、善玉菌が有利なら善玉菌に、悪玉菌が有利なら悪玉菌に加勢する、文字どおり「日和る」菌で、本質は良くも悪くもないものである、と。だが、短鎖脂肪酸をつくるのが日和見菌ならば、是非とも味方につけるべき菌、ということになる。
短鎖脂肪酸の材料(日和見菌の餌)になるのは、食物繊維だ。食物繊維はヒトの消化酵素では消化することができないため、そのまま大腸に到達して短鎖脂肪酸の材料となる。
健康のために食物繊維を摂りなさいというのが、より明快に理解できた。
腸内細菌は母親から遺伝する?
善玉菌:悪玉菌:日和見菌=2:1:7が理想の腸内細菌だが、腸内フローラの構成は人によって異なり、母親から子どもへと受け継がれていくものだという。母親の胎内は無菌状態だ。赤ちゃんは産道を通るときに母親の腸内細菌を受けつぎ、これを「苗床」に自分の腸内フローラを育てていくのだとか(帝王切開で生まれた赤ちゃんは、どこで苗床を得るのだろう。教えて、詳しい人!)。
母親の腸内環境が子どもに受けつがれ、後の太りやすさやアレルギーといった体質に影響するというのは、ちょっと怖い話だ。母親自身の腸内環境もその母から受け継いだものとはいえ、少しでも良好な状態で渡せるに越したことはない。多くの人に知ってほしい事実である。
腸内細菌が健康に及ぼす影響は大きく、だてに1キロも抱えているわけではないと感じる。食物繊維を含む食品や発酵食品が健康によいことを知らない人はいないだろうが、この講演は食事の大切さを改めて認識させてくれるものだった。
サイキンソーより
レポートありがとうございました! 「帝王切開で生まれた赤ちゃんは、どこで苗床を得るのだろう」という疑問についてお答えします。
帝王切開で生まれた赤ちゃんでは、最初に定着する菌は皮膚の常在菌が多いという研究結果があります。産道を通らないため、一番先に接触するのが、助産師の手や母親の胸だからかもしれません。その後、母乳に含まれる乳糖などをエサにして、ビフィズス菌などの乳児に多い菌が選択的に増殖することで、正常分娩の赤ちゃんの菌叢に近づいていくと考えられています。
ただし、全く同じようになることはなく、帝王切開の場合、正常分娩と比較して幼児期以降のアレルギー発生率が高い、という研究成果も発表されています。この点については、今後も追跡調査してさらに研究する必要があるでしょう。