2018年7月3日

健康長寿のための腸内ケア―第22回腸内細菌学会・市民公開講座レポート・前編―

近年、たびたび耳にするようになった「腸内細菌」、「腸内フローラ」という言葉。腸内環境が心と体の健康に大きく関わっていることが知られるようになり、「腸活」という考えも生まれました。先日都内で開催された第22回腸内細菌学会では、そんな関心の高まりを受けて市民のための公開講座が開かれました。

本公開講座では、「“長寿菌”がいのちを守る! 大切な腸内環境コントロール」、「病気と腸の関係」というふたつのテーマで、講演がおこなわれました。登壇者はメディアでもおなじみの辨野義己先生(理化学研究所)と中島淳先生(横浜市立大学)、座長は大草敏史先生(順天堂大学)です。その模様をレポートします。

“長寿菌”がいのちを守る! 大切な腸内環境コントロール
辨野義己
理化学研究所辨野特別研究室 特別招聘研究員

日本人女性の約半数が便秘に悩んでいる

食べたものがどれくらいの時間をかけて便となって排出されるのか。1970年代、そんな調査をおこなった英国の研究者がいました。それによると、ウガンダの黒人女性では12時間から18時間以内。しかし英国の白人女子学生では、72時間を超えていたそうです。これは人種の差ではなく、食べたものの差なのだとか。

日本人女性の48パーセントは3日以上便通がない便秘であり、そのうち65パーセントは5日に1度しか便通がありません。便秘に悩む人がもっとも多いのは20代女性。また30代、40代女性のおよそ95パーセントは、何らかのお腹の悩みを抱えています。たとえば、お腹が張ってぽっこりする、お通じが不規則である、食後にお腹の調子が悪い、臭いガスが出る、お腹に不快感や違和感を感じる、など。逆に、下痢をしやすいという人もいます。

便秘の原因は運動不足、食事の偏り、そしてストレスです。特に運動不足の影響は大きく、インナーマッスル(腸腰筋)の衰えは「出す力」の衰えに直結します。

一方、下痢に悩む人がもっとも多いのは、40代男性です。こちらは、ストレスが大きな影響を及ぼしているとのこと。

うんちの成分は? 食べかすばかりじゃありません

大便の成分、実は80パーセントが水分なのだそう。残りの固形成分のうち30~40パーセントは腸内細菌。なんと、大便1グラム中に約1兆個もの腸内細菌が存在しています。ほか、30パーセントが剥がれた腸粘膜、残りが食べかすです。

わたしたちのお腹に棲む腸内細菌は1~1.5キロ、その種類は1000種類以上にのぼります。その腸内細菌のすみかである大腸は、あらゆる臓器の中で、もっとも多くの病気(が発生する可能性)がある臓器です。大腸ポリープ、大腸がん、潰瘍性大腸炎……。腸内細菌が作りだした発がん物質、発がん促進物質、細菌毒素が直接作用することによって発生するためです。

腸内細菌が関与する病気は、大腸のものに限りません。大腸で生まれた原因物質が、血液を介して全身に影響を及ぼすからですね。たとえば、肝臓がん。また乳がん、肥満や糖尿病も、腸内細菌の関与が疑われています。鬱や自閉症にも、腸内細菌が関与しています。というのも、ドーパミンという神経伝達物質は腸内細菌によって抑制されたり、乳児の脳の発達や行動に関係するN-アセチルノイラミン酸は腸内細菌によって産生されたりしているのです(脳腸相関)。

健康長寿者の腸に多く棲む“長寿菌”とは?

では、どうすれば病気を予防し、健康に長生きできるのか。その答えを求めて居住地域ごとの調査がおこなわれた結果、健康長寿者の腸内にはビフィズス菌と酪酸産生菌が多いということが明らかになりました。辨野先生は、この2種を“長寿菌”と呼んでいます。

長寿菌を活性化するのは、プロバイオティクス(発酵食品に含まれる生きた有用菌)プレバイオティクス(野菜などに含まれる食物繊維やオリゴ糖など、有用菌のエサとなる物質)です。

プロバイオティクスは腸内の長寿菌を活性化して免疫力を強化する(免疫細胞を増やしたり活性化させたりする)ほか、大腸がんを予防し、花粉症などのアレルギー症状を軽減してくれます。プレバイオティクスである食物繊維は酪酸の産生に不可欠であるほか、水分を保持して便量を増加させたり、コレステロールを吸収・抑制して大腸がんや心臓病を予防したりします。

質の良いお通じに特に大切なのは、運動です。辨野先生によると、1日9000歩を継続することで、「するり」と出すためのインナーマッスル(腸腰筋)が鍛えられるのだそう。

運動、野菜、そして発酵食品。寿命さえ左右する臓器である「腸」をしっかりケアして、健康寿命を延ばしたいですね。

プロバイオティクスやプレバイオティクスへの関心は高まる一方ですが、辨野先生によるとお通じの質の50パーセントは運動で決まるとのこと。そのためには積極的に外に出かけること、人と交わること、夢を持つことが大切です、というお話が印象的でした。

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後編では、病気と腸の関係についての興味深いお話をレポートします。みなさんは「リーキーガット」という言葉を耳にしたことがありますか? 自覚症状のない、しかし長い年月をかけて確実に体を蝕むこの問題を、中島先生がわかりやすく解説してくださいました。