2017年12月26日

家畜のgut feeling(直感ならぬ腸感?)研究プロジェクトが発足

デラウェア大学に、ニワトリやウシなどの家畜の腸内の健康にフォーカスした研究室が発足したというニュースです。具体的な研究の着目点についてご紹介します。

抗生物質の代替品が注目されている

抗生物質は、畜産において病気から家畜を守り、成長を促進するために使われてきましたが、昨今ではその使用に関する問題が指摘されています。

農林水産省やWHOなどの国内外の機関でも、家禽や家畜への成長促進や予防目的での常態的な使用は避けるように、畜産の現場に対して指導を行っています。家畜から生産される乳製品、卵や肉といった畜産物は食用となるため、家畜に使用できる抗生物質の種類、量、時期や期間などには厳しい基準が設けられています。家畜に対して、人と同じようには抗生物質を使うことはできないのです。また近年では、人間同様に家畜でも耐性菌が大きな問題になっています。

ヨーロッパでは、すでに消費者の間でも抗生物質の過剰使用や耐性菌などの悪影響に関する認知が広がっており、年々家畜への抗生物質使用量は減少しています。

その一方で、プロバイオティクス、プレバイオティクスなど、さまざまな物質が抗生物質の代替品として注目を集め、使用量も年々増加しています。消化管に作用する抗生物質の代替品を探している研究者たちにとって、腸内の健康は最大の関心事です。

消化管の健康なくして成長なし

栄養吸収を行う消化管の機能を健康に保てずして、動物の成長は見込めません。

以前にウマの消化管内発酵についてご紹介しましたが、ウシもウマとは方法がやや異なるものの、消化管内発酵から栄養を摂取しています。そのため、特に消化管の健康は非常に重要で、生産性に大きく影響してきます。

消化管は、病原菌の侵入により、多くの疾患の原因部位ともなります。また、他の器官とも密接に関係しています。例えば、神経支配が最も多い臓器は、脳の次に消化管であり、免疫システムを構成する要素の50%以上は消化管にあります。

そんな消化管内の細菌叢は、クローン病や潰瘍性大腸炎のような疾患とも関連があると考えられています。また、免疫システムの構築や応答にも寄与しているため、仔ウシやニワトリの雛、人の乳幼児による腸内細菌の獲得は、生涯を通じて影響を及ぼします。一例として、多くのアレルギーや自己免疫疾患は、幼児期にどのように細菌叢を獲得するかに起因しているといわれています。

研究の着目点:細菌叢の獲得と宿主との相互作用のメカニズム

デラウェア大学のArsenault准教授の研究室では、プロバイオティクスに関する問題へのアプローチとして、ニワトリやウシが健康または不健康な細菌叢をどのように獲得するのか、細菌叢が宿主の動物に与えるシグナルは何か、ということに着目しています。そのうえで、家畜の免疫システムや栄養吸収率が最適条件になるよう、健康な細菌叢に最適な食餌を明らかにしようとしています。

また、この研究は、ヒトの健康と動物や環境の健康はつながっているという「One Health」コンセプトと結びついています。我々人間の健康について考えるとき、感染症の影響という点でも、外挿可能な新しい知見という点でも、他の動物や環境の健康は無視できないのです。ちなみに、最も一般的な人獣共通感染症は消化管疾患であり、サルモネラやカンピロバクターなどが含まれます。

進行中の研究1——抗生物質代替品の酵母抽出物

研究プロジェクトのひとつとして、飼料に添加できる抗生物質の代替品の探索が行われています。抗生物質使用制限もあり、養鶏場で深刻な問題であるニワトリの壊死性腸炎などの疾患に対する効果が検討されています。

特に、未精製の酵母細胞壁抽出物が免疫受容体を誘導することから、抗生物質の代替としてその精製物の活用が注目されています。精製状態のよさと免疫応答は相関しているようです。酵母は真菌であり、消化管内で細菌とは異なる受容体に結合して、反応を引き起こします。免疫システムを刺激するのではなく、動きを鈍らせない、加速や調整のはたらきをしています。

進行中の研究2——細菌を認識してシグナルを伝達する細胞の機構

もうひとつは、効果を発揮するメカニズムとして「パターン認識受容体」についても着目しています。パターン認識受容体とは、免疫システムに発現している受容体です。ニワトリのマクロファージ細胞株の例で言うなら、細菌にのみ見られる形態のうち、一組の核酸のような特定の普遍的細菌モチーフを認識する受容体です。

具体的な手法としては、マクロファージを、酪酸(ポストバイオティクスと考えられている)とフォルスコリン(ヒトの減量サプリメントとして使われる植物抽出物)で処理します。

さらに、異なる飼料添加物の給餌後に起こる、細胞内のシグナル伝達の変化を見るキノーム解析や、腸内病原微生物に感染していない無作為抽出された酪農牛8頭を対象とした、消化管内の正常な免疫細胞シグナル伝達のベースラインの構築なども行われています。

腸内細菌叢の作用メカニズムの解明に向けて

同研究室では、ウマの腸内細菌プロジェクトも進行しており、ウマの腸内の健康や、疾患における細菌の役割を解明しようとしているそうです。

このように、腸内細菌叢の研究は細菌の種類だけではなく、その作用機序を明らかにするなど、さまざまなアプローチで、またさまざまな宿主生物を対象として進んでいます。

参考文献