2018年7月3日

健康長寿のための腸内ケア―第22回腸内細菌学会・市民公開講座レポート・後編―

市民公開講座の後編では、さまざまな病気の原因になったり、悪化要因になったりする「リーキーガット」についてお話をうかがいました。

病気と腸の関係
中島淳
横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授

腸内フローラのさまざまな役割

わたしたちの体内には、膨大な数の細菌がいます。腸内細菌の総数は、およそ600兆。なんと、体の細胞の10倍以上です。さまざまな細菌の集合体である「腸内フローラ」は、以下のような役割を担っています。

・病気から体を守る。病原体の侵入を防ぐ
・食物繊維をエサにして大腸の細胞のエネルギー源となる酢酸や酪酸を作る
・人間に作れないビタミンを作る
・セロトニンやドーパミンといった人間の情動をつかさどる神経伝達物質を作る(セロトニンが増えると下痢になり、減ると便秘になるのだとか)。
・外部からやってくる異物に対処する免疫に大きく関わる。

腸内フローラのバランスが崩れたり、たちの悪い菌が増えたりすることを「ディスバイオシス」といいます。たとえば、激しい腹痛を起こす偽膜性腸炎の原因菌、クロストリジウム-ディフィシルは誰の腸内にも存在しますが、いい菌がたくさんいる状態では悪さをしません。しかし、抗生物質を飲んだり免疫力が低下したりすると、原因菌が増えて偽膜性腸炎を引き起こす、というわけです。

腸内細菌が直接的、間接的にさまざまな病気に関与していることは、辨野先生のお話にもあったとおりです。腸内細菌と病気との関連性については研究が進んでおり、新たな知見がもたらされていますが、それに加えて近年、腸内細菌と体の中を隔てるバリアとしての腸壁の重要性が大きな注目を集めています。

腸のバリアが危うい

腸の表面積は、テニスコート1面分ほどもあります。表面積を広げることで、食べたものを効率よく吸収しようというわけです。その腸を体内と隔てているのが、腸壁です。腸の細胞は危険な細菌を侵入させないようバリアを維持したり、ときに病原菌と戦うためにバリアを壊し、白血球を出動させたりします。わずか数ミクロンの細胞1層が、ばい菌から体を守っているのですね。

このバリアは、たとえば大やけどを負うと壊れてしまいます。すると、腸管内の細菌や毒素が体内に侵入して、敗血症を引き起こすことが知られていました。しかし、日常生活においても、バリアである腸壁が壊れて毒素や細菌がダダ漏れ(!)になっていることがわかってきたのです。

そういった状態は、リーキーガット(腸管壁浸漏症候群)と呼ばれています。Leaky Gut、すなわち漏れやすい腸、ということですね。

リーキーガットと病気、便秘との関係は?

敗血症の一番の原因は、グラム陰性桿菌が出す毒素であるエンドトキシンです。このエンドトキシンは、高脂肪食をつづけると血中に入りこむ量が増えることが確認されています。つまり、脂っこい食事が腸のバリアをわずかながら壊し、毒素が体内に侵入するのです。

腸のバリアを破壊するものには、ほかにアルコールや果物、消炎鎮痛剤、人工甘味料、乳化剤などがあります。お酒や薬品、食品添加物はともかく、体によいイメージがある果物が腸のバリアを壊すとは。いくらおいしくても、食べ過ぎないようにしたいですね。

ダダ漏れといっても微量ですから、自覚症状はありません。リーキーガットによって体内に侵入する細菌はごくわずかですが、5年、10年と経つうちに喘息を引き起こしたり、動脈硬化や食物アレルギーを起こしたりするのです。

喘息や、大人になってから発症する食物アレルギー(特に小麦)には、リーキーガットが関与しているかもしれないことが最近わかってきました。食事のあと体を動かすことで症状が出る運動誘発性の食物アレルギーも、充分に分解されていない抗原が体内に入ることで引き起こされるものです。

なお、腸のバリアは、ストレスによっても壊れます。その代表的な例が、過敏性腸症候群です。かつて、過敏性腸症候群は気のせいだといわれていました。ですが、ストレスが腸のバリアを壊すことがわかり、腸の構造の病気であると判明したのだとか。

また、自閉症やパーキンソン病においても、腸のバリアが壊れていることが知られています。リーキーガットは、これらの病気の原因とはいえないまでも、病気を悪化させる要因であると考えられています。

パーキンソン病は手の震えや歩行の困難といった運動障害を示す病気ですが、非運動症状でもっとも知られているのは便秘です。またレビー小体型認知症は、発病の15年ほど前から便秘が始まることが知られています。便秘が病気の結果なのか、それとも原因なのかはわかっていません。しかし、今便秘がある人がそれをコントロールすることは、マイナスにはならないでしょう。

日本人特有の腸内細菌

講演の最後に、先生はこんなエピソードを紹介してくださいました。

・パプアニューギニアの人々は、1日に1.5キロものサツマイモを食べる。総摂取カロリーのほとんどをサツマイモでまかない、肉はほとんど口にしないにもかかわらず、彼らは立派に発達した筋肉を持っている。

・1549年に日本にキリスト教を伝えたフランシスコ・ザビエルが残した記録には「日本人は肉を食べない。ときおり魚を口にし、わずかな果物を食べるほかは、草ばかり食べている。小食だがとても健康だ」とある。

パプアニューギニアにはパプアニューギニアの、日本には日本特有の腸内細菌があります。日本人の腸内フローラは、諸外国と比較してビフィズス菌が圧倒的に多く、古細菌は少ないという特徴があります。また、ほとんどの人が海苔やワカメを分解する細菌を持っているのも、日本人ならではだそうです。

「肉を食べなさい」というのは栄養学的に正しいかもしれませんが、もっと違ったアプローチがあるかもしれないことを、このエピソードは示唆しています。日本人の長寿の糸口も、そこにあるかもしれません。

腸が喜ぶ食事を(講演を聞いて)

お通じは健康のバロメータであると、改めて教えてくれる講演でした。また、人工甘味料が糖尿病を悪化させるかもしれないと聞いたことはありましたが、腸に穴を空けるというお話は衝撃でした。体によさそうな果物も、ほどほどにしなければアレルギーの原因になるのですね。

ザビエルの時代とは日本人の体格や寿命が異なっており、伝統食に戻りさえすればよいというものではないかもしれませんが、日本人の腸(腸内細菌)が喜ぶ食事とはどんなものかを考え直したい。そう感じた講演でした。