2017年1月10日

内臓脂肪型肥満は、遺伝する?!―双生児を対象とした大規模プロファイリングから

内臓脂肪型肥満は、遺伝する

ヒトの腸内細菌叢は間接的に「遺伝」する。そして子へ伝えられた腸内細菌のあるものは、私たちが摂った食物を代謝する過程で炎症や内臓脂肪蓄積の原因になる化学物質を産生し、それが心臓代謝性疾患に繋がっている可能性がある。これを明らかにしたのはロンドン・キングスカレッジ・双生児研究及び遺伝疫学部のBeaumont博士の研究チームで、その成果はゲノム・バイオロジー2016年9月26日号に発表された。

遺伝をテーマとしたこの研究のキーとなるポイントは3つある。まず、研究対象を双生児に絞ったこと。そして、内臓脂肪蓄積に関して検討すべき肥満(脂肪過多症)の指標を特定したこと。さらに、次世代シーケンサーを用いた糞便サンプルのメタアナリシスによって、腸内細菌叢構成やその機能を明らかにしたことである。

ポイント1、研究対象を双生児とした理由

対象を双生児とした理由は、彼らは一般的に誕生直後から同じ環境で同じ食物を摂って成長することから、腸内細菌叢の構成もほぼ同じと考えられるからである。これは、実際に双生児を対象としたMethanobrevibacter属の細菌保有率の調査で、一卵性双生児では高い一致を示したことによっても裏付けられている。

また、腸内細菌叢のコロニー形成には微生物の母子感染ばかりでなく宿主遺伝子すなわちヒトの遺伝子も何らかの役割を果たしていると推定されてきた。一卵性双生児と二卵性双生児の両方を対象とすることによって、前者の遺伝的同一性と後者の遺伝的類似性を手がかりにコロニー形成に関わる宿主遺伝子の探査が可能になるからである。

今回は、脂肪過多症のタイプに関するプロファイリングでは1044組の一卵性双生児と789組の二卵性双生児が、そして腸内細菌叢のプロファイリングでは496名の一卵性双生児と594名の二卵性双生児を含む合計1313名が対象とされた。

ポイント2、検討すべき肥満(脂肪過多症)の指標を特定

腹部内臓脂肪の蓄積は、2型糖尿病や心血管疾患などの予防可能な肥満関連心臓代謝性疾患の原因として重要なチェック項目となっている。これまで脂肪過多症の程度の判定には、身長と体重から割り出したBMI(ボディー・マス・インデックス)がしばしば用いられてきた。しかしながら、BMIでは内臓脂肪や皮下脂肪の量、またそれらが占める比率など、患者それぞれで異なる脂肪過多症の実像をとらえることは不可能だった。

脂肪過多症の6つの指標

そこで研究チームは体組織と脂肪軟組織を明確に区別することができる二重エネルギーX線吸収法を用いて、まず体内の脂肪分布(内臓脂肪・皮下脂肪・体幹脂肪)を厳密に把握した。そして、内臓脂肪量(VFM)、皮下脂肪量(SFM)、体幹脂肪率(pTF)、ウエスト/ヒップ比(WHR)、BMI、アンドロイド/ガイノイド比(AGR)の6つを検討すべき脂肪過多症の指標とした。

これらのうち、体幹脂肪率(pTF)とは頭部と四肢を除いた体幹の脂肪比率である。またアンドロイド/ガイノイド比(AGR)とは、腹部への脂肪蓄積が著しいリンゴ型肥満(アンドロイド肥満)と骨盤部以下の脂肪蓄積が著しい洋梨型肥満(ガイノイド肥満)の2つの領域の脂肪量から導かれた指標である。

脂肪過多症指標の遺伝と宿主遺伝子

この研究プロジェクトで得られたそれぞれの肥満指標の遺伝率は、内臓脂肪量(VFM):0.70、皮下脂肪量(SFM):0.72、体幹脂肪率(pTF):0.66、アンドロイド/ガイノイド比(AGR):0.65、そしてウエスト/ヒップ比(WHR):0.32、BMI:0.75であった。

いずれの指標もこのように高い遺伝率を示していることは、肥満には食生活やライフスタイルばかりでなく、遺伝的影響も無視できないということである。

今回の研究プロジェクトでは宿主遺伝子の具体的な働きがすべて明らかにされたわけではないが、いずれも胃から結腸までの消化管の一部や脳組織、精巣などで発現するFHITTDRG1ELAVL4の3つの宿主遺伝子の個人差(一塩基多型)が脂肪蓄積に関連していることが明らかにされた。

ポイントその3、腸内細菌叢構成を明らかにした

プロファイリングは、通例に従って1313名の双生児から得られた糞便サンプルに含まれる16S rRNAのV4領域の遺伝子配列決定により、およそ1万2000種の分類単位を同定した。またそれぞれの分類単位やDNAの機能解析はKEGGに基づいた。

明らかにされた腸内細菌叢構成は、ファーミキューテス門(51%)が最も支配的で、バクテロイデーテス門(39%)およびプロテオバクテリア門(4%)と続いていた。そして、すべての腸内細菌叢の予想平均遺伝率は0.07であった。これを分類群単位でみると、Clostridium perfringens(ウェルシュ菌)の遺伝率が0.42ともっとも高く、Christensenellaceae科の細菌が0.31とそれに引き続いた。同定された122種の分類単位の少なくとも6%が遺伝の証拠をもっており、被験者の25%から発見された。

この研究プロジェクトでの発見

多様性の大切さ

これまででもっとも規模の大きい細菌叢と肥満との関連を探るこの研究で明らかにされたもっとも基本的な事実は、脂肪過多症は腸内細菌叢の多様性の低さと深く結びついていることである。またこの多様性の低さは6つの脂肪過多症の指標とも深く関連していることが確認された。

腸内細菌叢と肥満とのむすびつき

同定されたおよそ1万2000種の分類単位のうち149種が肥満と有意に関連しており、その大部分の種はファーミキューテス門のRuminococcaceae科に属していることが確認された。これらのうち、これまで肥満の指標として用いられてきたBMIと有意に関連している分類単位がわずか7種であるのに対して、内臓脂肪量(VFM)には97種が深い関わりを持っていることが明らかにされた。このうちのいくつかは、アメリカのAmerican Gut、ベルギーのFlemish Gut Flora Project、そしてイギリスのExtended TwinsUKの独立した3つのデータベースと共通していた。

さらに重要な発見は、特に心血管リスクとの重大な関連が示唆される内臓脂肪量(VFM)とアンドロイド/ガイノイド比(AGR)に対して、腸内細菌の特定のメンバーが結びついていることである。

Blautia属細菌は心血管リスクのための微生物マーカーの候補となるほどVFMおよびAGRと正の相関を示した。逆にOscillospira属、Lachnospira属およびRuminococcus属の細菌はすべてVFMおよびAGRと負の関連を示し、心血管リスクに対して潜在的に保護的役割を担っていることが示唆された。

また0.31と高い遺伝性を示したChristensenellaceae科の細菌も内臓脂肪量(VFM)と関連していることが確認されたが、その関係性は内臓脂肪蓄積に対する強力な防御作用をもつことで、Christensenellaceae科細菌の保有者は心血管リスクが低いことを示唆している。

内臓脂肪と相関する新たな糖代謝を見出した

研究チームは、メタゲノムの機能性組成物を予測する計算論的アプローチとして注目されているPICRUSt(未観察状態の再現による群集の系統研究)を用いて糖代謝に関連する遺伝子群を分析した。ttdA遺伝子およびttdB遺伝子を用いた解析では、内臓脂肪とグリオキシル酸およびジカルボン酸代謝の間に強い正の相関を見出した。

グリオキシル酸サイクルはこれまで発芽中の植物で知られていた代謝経路で動物に存在しないと考えられてきたが、脂肪酸が豊富な環境ではその脂肪酸をグルコースに代謝する能力がインスリン抵抗性に寄与していることが最近明らかにされた。つまり、内臓脂肪の蓄積が2型糖尿病発症の原因であることが裏付けられたのである。

長い進化の歴史をヒトとともに歩んできた腸内細菌叢は、ヒトの共生微生物として遺伝子レベルでも互いに影響を及ぼし合っているのだ。

■参考文献

Beaumont M, et al. (2016) Heritable components of the human fecal microbiome are associated with visceral fat. Genome Biol.17(1):189.

Body fat link to bacteria in faeces – BBC News

Are Your Genes Making It Hard To Get Into Your Jeans? – uBiome Blog

PICRUSt 1.1.0 documentation