ヒトにも関係のあるニワトリの細菌叢と感染症
ニワトリは、人獣共通感染症の媒介動物であることでも有名です。ニワトリだけではなく、ヒトにも感染して病原性を有するサルモネラやカンピロバクターなどの保菌動物です。その他、様々なウイルスを保有することでも知られています。
このような病原性微生物に関して、遺伝子的解析が行われてきました。その結果、ニワトリの消化管内では、病原性微生物とそうでない微生物の間で絶妙なバランスが保たれていることが明らかになりました。
感染性病原菌とニワトリと細菌叢
安定した健康な消化管内細菌叢はサルモネラやカンピロバクターなど人獣共通感染症の病原体の増殖を抑制することができる、との報告もあります。
エンテロコッカス属のEnterococcus faecium やラクトバシルス属(Lactobacillus)が主要な病原性微生物と競合することで、病原性微生物の増殖を抑制します。種の多様性や複雑さが増すことで、相対的に病原性微生物が減少している可能性も示唆されています。つまり、病原性生物の感染に先立って細菌叢を獲得し、消化管内に備えておくことは、抵抗性を持つために重要であるようです。これは、腸上皮表面での細菌叢の秩序だった配置や、上皮表面への細菌叢の接着が、病原性微生物に対する抵抗性に関与している可能性が高い、と考えられているためです。
消化管内細菌叢を保つのに大事なこと
病原性微生物による感染症を防ぐために消化管の健康な細菌叢を保つことが重要である、というのは既に一般的な知見になりつつあります。しかし、消化管内細菌叢を乱す要因はいくつもあります。アイメリアなどの原虫寄生もその一つですが、抗生物質の投与が原因の一つとして挙げられています。
低用量の抗生物質を成長促進のために常用してきたのは、家畜だけではなく、ニワトリでも同じです。近年はこうした抗生物質の使用は、耐性菌の観点からも問題視されています。
家畜のgut feeling(直感ならぬ腸感?)研究プロジェクトが発足
また、こうした耐性菌は、ニワトリに留まるものだけでなく、ヒトへ移行するものも含まれており、双方にとっての問題となっています。
そのため、ニワトリでも、消化管内細菌叢に直接効果を発揮するような栄養素の供給やプロバイオティクスの使用により、消化管内の細菌叢を健康な状態に維持することが試みられています。
ニワトリの雛の細菌叢も母親から
哺乳類と違って、産道を通らず、母親から卵殻で隔離されている鳥類の雛は、どのようにしてこのように必要な細菌叢を獲得しているのでしょうか。
本来、母親の巣で育てられる雛は、母親の糞由来の細菌叢を摂取することで、自らの細菌叢を獲得しています。しかし、現在ニワトリの飼養で一般的に行われている人工孵化から始まる飼育環境では、そのようにして獲得することはできません。そのため養鶏場では、プロバイオティクスの投与や輸送箱などへの噴霧を通して、雛は細菌叢を獲得しているのです。
こうして雛が細菌叢を獲得することは、サルモネラなどの感染症に対する抵抗性を身につける上で、欠かせない必要なことでもあります。
ヒトの生活に密着したニワトリの細菌叢
哺乳類であるヒトとは縁の遠そうに思えた鳥類のニワトリですが、同じように細菌叢を消化管内の隅々で活用し、共生しています。
また、膨大な数のニワトリが飼育されている現状を考えれば、彼らのもたらす多岐にわたる影響が、我々ヒトの生活においても重大なものであることも分かります。
ヒトの生活に密着した他の生物の細菌叢も、気付かぬところで我々の生活に重要な影響を与えているのですね。
参考文献
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