2019年4月9日

食後の血糖値変化を予測する要因に腸内細菌叢がある

糖尿病に罹患している人や糖尿病の治療や予防にあたる医療関係者にとって、血糖値の変化は糖尿病やその他の疾患を管理し、予測する重要な因子と考えられています。医療現場だけではなく、近年では健康に気を使う人や体型を気にする人の間でも、血糖値は一般的な用語になりつつあります。

血糖値の変動をどう解釈し、コントロールするかということが長年研究されていますが、近年その変動と腸内細菌叢の関連が明らかになってきました。

食事と血糖値の関連を数値化して病態予測につなげる

肥満や糖尿病の予防や管理のために、どのような食事が血糖値の変動に影響を与えるのか、様々な研究が行われてきました。食事全体における炭水化物の質に応じた食後血糖値の上昇能を示すグリセミック・インデックス(glycemic index: GI)や、食事の中で摂取される炭水化物の質と量とを同時に示すグリセミック負荷(glycemic load: GL)などによる糖尿病リスクの評価が提唱されてきました。

GIやGLが高くなりがちな日本の一般的な食生活についても指摘されており、これらの指標と糖尿病の発症リスクに相関があることも疫学的前向き研究によって示されています。特に血糖値を上げやすい炭水化物を含む食品として、白米、食パン、もち、じゃがいもが指摘されていますが、その中でも白米は特に女性で2型糖尿病のリスク上昇と関連があることも報告されています。

今では世界的なコンセンサスとして、GIとGLが低い食事は糖尿病だけでなく、冠動脈性心疾患や肥満の管理や予防に効果的であると認識されています。

その他にも、食事による血糖値の変化を示す血糖応答(glycemic response: GR)という指数もあります。

このように、食事と血糖値は密接な関連があり、糖尿病を始めとする様々な代謝性疾患の予防には、食後血糖応答(postprandial glycemic response: PPGR)を正常に維持することが不可欠と考えられています。慢性的な応答不良は、疾患リスクを増加させることが知られています。

体質の多様性に挑む

これまで用いられてきたGIやGLといった指標は、特定の食事に対してPPGRを定量的に評価しますが、実生活での多様な食事や要因を評価できない問題がありました。また、同じ食事に対して応答に個人差があることも小規模試験から報告されています。

個人差の要因として、遺伝子、生活習慣、インスリン応答などの生理機能だけでなく、腸内細菌叢の違いも同様に指摘されています。これらから生じる個人差は、結果的に肥満や疾患、その合併症にまで影響を及ぼします。そのため近年では、食事の評価だけではなく、これらの様々な要因やその影響を明らかにすることが重要視されています。

そこで2015年に、多角的な情報を分析することで、多様性を生じさせる多種多様な要因を明らかにし、個人差に応じた個別予測を可能にするための機械学習アルゴリズムの構築を試みる大規模試験が行われました。

イスラエルで行われたこのコホート研究では、まず、糖尿病の罹患歴のない18〜70歳の男女800人を対象に、夜間絶食後の朝食のみの置き換えを1週間行い、PPGRの差について調べました。その結果、病歴および腸内細菌叢とPPGRとの間に関連があることが分かりました。

次に、その結果と得られた様々なデータを元に、機械学習によりアルゴリズムを構築し、病歴や腸内細菌叢などの因子からPPGRを予測する試みが、126人を対象に行われました。結果を元に、細菌叢はそれぞれ有益さに応じて大まかなグループに分けられました。分析手法として部分従属プロット(partial dependency plot)を用い、先の研究で明らかになった様々な要因を特徴量として変動させ、予測に与える影響を検討しました。

結果として、細菌叢のグループを特徴量とした場合に、PPGRや病歴の予測に影響を与えていることが明らかになりました。それ以外にも、食事内容以外の要因がPPGRに影響を与えていることも示唆されました。

異なる人種構成でさらなるPPGRの個別予測手法の確立を目指す

同様の試験デザインや手法を用いて、2019年に報告されたアメリカのコホート研究では、糖尿病の罹患歴のない18歳以上の男女327人を対象に、朝食のみの置き換えを6日間行い、PPGRの差について調べられました。人種に大きな偏りを生じさせ、中西部に代表的な食生活で健康な人を対象にしていることで、先行研究とは異なる比較的均質な集団での試験です。

その結果、これほど均質な集団においても、PPGRには大きな個人差があり、同じ食事に置き換えても個人間で大きな差が生じる結果となりました。また、先行研究の予測アルゴリズムによるPPGRの個別予測が、従来の数値評価に依存した予測に比べて効果的であることも実証されました。

一方で、このような試験では、食事などの生活全般のデータが被験者の主観的主体的報告に依存しがちになるため、より精度の高いデータ収集を目指したデザインの検討が必要であることも指摘されています。

細菌叢など個々の体質評価が健康管理の鍵に

食事に含まれる炭水化物を主とした従来の画一的な数値指標による評価では包含しきれなかった、腸内細菌叢などの個人差のPPGRへの影響が明らかになってきました。また、一歩進んで機械学習により個人差に対応できる疾患予測を可能にするという、新しい疾患予防や医療の開発が試みられていることが垣間見えました。

健康管理や疾患予測技術の大きな変化や進歩から、今後も目が離せません。

参考文献

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