中国広東省7000人の腸内細菌叢とメタボリックシンドローム、経済状態の関係
近年、さまざまな疾患と腸内細菌叢の関連性が示唆されてきました。今回は、日本でも多くの人が悩まされているメタボリックシンドロームと腸内細菌叢との関連性について、中国で約7000人が対象となった大規模調査にもとづいた研究をご紹介します。
中国での腸内細菌大規模調査
約7000人が対象となった大規模調査とは、広東腸内細菌叢プロジェクト(GGMP)です。これは、中国南部の広東省から無作為抽出されたさまざまな経済発展レベルの14の地域または郡を対象とした、東洋で最大規模の集団ベース研究です。この疫学調査は、さまざまな経済状態の被験者における、腸内細菌叢と生理学的要因、食事、地理的要因、身体活動、そして社会経済状態との関連性を調べることを目的として行われました。
今回の研究では、この調査から得られたデータを用いて、メタボリックシンドローム(MetS)と腸内細菌叢の関連についての解析が行われました。
被験者は、致命的な疾患および投薬中の糖尿病に罹患していない、18〜97歳男女でした。MetS診断に必要な情報が不足している被験者を除外した、合計6896人が解析対象となりました。男女比は同等でした。
GGMPでは、解析対象となった被験者のうち、1404人(20.4%)がMetSと診断されました。多かった疾患は、収縮期高血圧、高密度リポ蛋白(HDL)いわゆるコレステロール高値などでした。男性の方が女性に比べて有意に多くMetSや関連疾患と診断されました。
細菌叢概要に見る疾患と細菌叢の関連性
細菌叢の遺伝子データを、細菌の16S遺伝子配列を利用した操作的分類単位(OTU、定義はこちら)を用いて分類しました。その結果、解析された930 OTUの内、全体の80%を構成する529 OTUとMetSまたはその関連因子に有意な関連性がありました。細菌とMetSまたはその診断要因との関係1243件の内、676件は罹患者ほど少ないという負の関連性、567件は逆に多いという正の関連性を示しました。
系統的に一貫する細菌と疾患との関連性
OTUから判断された種としては、バクテロイデーテス門、プロテオバクテリア門、ファーミキューテス門が、全体量の92.3%を占め、MetSと関連性を示した細菌の大多数を占めました。
・バクテロイデーテス門
129 OTUがMetSと関連を示し、これは門全体の79.2%、また全細菌叢の27.9%におよびました。この129 OTUは、MetSと362件の関係がありましたが、そのほとんどは負の関連性でした。
・プロテオバクテリア門
137 OTUのうち96がMetSまたはその診断要因に関連し、門全体量の93.4%を占め、全細菌叢の15.3%を占めました。
・ファーミキューテス門
代謝疾患における役割が複雑であることが知られていますが、先行研究の結果は一貫していません。今回の研究においても同様で、OTUとMetSとの関連性には、一貫性がありませんでした。
OTUとMetSまたは診断要因との間には、272件の正の関連性と284件の負の関連性がありました。腸内細菌種とMetSとの関連性は、科レベルでは系統的に保存されていました。例えば、ルミノコッカス科やクリステンセネラ科などは、MetSに対して負の関連性、逆にクロストリジウム科などを含むその他のファーミキューテス門は正の関連性がありました。
・その他
アクチノバクテリア門や古細菌のユリアーキオータ門などで、MetSまたはその診断要因との関連性がありました。
腸内細菌叢と経済状態とメタボリックシンドロームの関連性
なお、この報告では、広東省統計局の2015年のデータおよびGGMPの調査票の記載データに基づいて、経済レベルとの関連性についても解析されました。
性別、年齢、ブリストル便性状スケールを交絡因子として解析したところ、214 OTU(全体の38.3%)が、収入および支出と有意に関連していました。そのうち140 OTUは、正の関連性があり、構成する菌群としては、バクテロイデーテス門の59 OTUが最多でした。また、その214のOTUのうち、157が有意にMetSまたはその診断要因と関連していました。
しかし、OTUとMetS、OTUと経済状態の両相関には、一貫性はありませんでした。経済状態と正の相関を示したOTUには、MetSと正の相関を示したものも、負の相関も示したものもありました。経済状態と高い相関を示したのは、正の相関を示したバクテロイデーテス門、負の相関を示したプロテオバクテリア門のラルストニア属(Ralstonia)などでした。
経済レベルと疾患と腸内細菌叢との三者の関連性については、いくつかの相関は見られたものの、複数の生活要因が複雑に影響し合うため、直接的な関連性を証明するには至りませんでした。
西欧諸国での研究結果が中国でも示された
今回の研究から、腸内細菌叢がMetSに伴って変化すること、その変化は系統的によく保存され、西欧諸国での研究結果と類似することが、中国でも示されました。日本や中国を含め、世界的に問題となっているMetSですが、腸内細菌叢もその影響を受けているのかもしれません。
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参照文献
- HE, Yan, et al. Linking gut microbiota, metabolic syndrome and economic status based on a population-level analysis. Microbiome, 2018, 6.1: 172.
- HE, Yan, et al. Regional variation limits applications of healthy gut microbiome reference ranges and disease models. Nature medicine, 2018, 24.10: 1532.
- 国立国際医療研究センター糖尿病情報センター、メタボってなに? <2018.10.23 アクセス>