プロバイオティクスは腸管粘膜に定着するか(ヒトの場合)
前回、プロバイオティクスは本当に腸内細菌叢に影響を与えるのか、という疑問に答えるための研究の前編をご紹介しました。
前回は実験動物のマウスを使った結果が中心でしたが、今回の後編では、プロバイオティクスの投与がヒトの菌叢をどのように変化させるかという研究をご紹介します。1)
糞便と消化管粘膜の解析結果は一致しない
15人の健常なボランティアに試験に参加してもらい、10人には1日おきに計4週間プロバイティクスを、残り5人には偽薬を飲んでもらいました。
使用したのは、前回と同様の4つのグラム陽性菌(Lactobacillus、Bifidobacterium、Lactococcus、Streptococcus)のサプリメント(Bio-25、Supherb社)です。具体的にはLactobacillus acidophilus、Lactobacillus casei、Lactobacillus casei sbsp. paracasei、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus rhamnosus、Bifidobacterium longum、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium breve、Bifidobacterium longum sbsp. infantis、Lactococcus lactis、Streptococcus thermophilus の11菌種です。
そして試験期間前、中、後で糞便を採取し、また上部ならびに下部内視鏡検査で腸管内容物を回収しました。
糞便の16S rRNAシークエンス解析では、サプリ摂取中にLactococcusの増加は認めましたが、Lactobacillus、Bifidobacterium、Streptococcusは変化しませんでした。
同様に上部、下部消化管の粘膜や管腔の16S rRNAによる解析でも、サプリ摂取中にこれらすべての菌の変化は認めませんでした。
より感度の高い解析として菌種特異的なqPCRを行ったところ、糞便中で11菌種のうち7菌種の有意な増加が確認されました。そしてこれらの菌種も、サプリ内服終了後にはもとのレベルに戻りました。
特異的なqPCRを用いた消化管の粘膜の解析では、サプリ摂取中に11菌種のうち10菌種(Bifidobacterium bifidum以外)で有意な増加を認め、特にその傾向は下部消化管で強く見られました。
つまり、糞便中でプロバイオティクスの量を調べても、腸管に定着しているかどうかの指標にはならないことがわかりました。
プロバイオティクスのヒトへの腸管定着には個人差がある
興味深いことに、被験者ごとにそれぞれ解析したところ、サプリ内服中のプロバイオティクスの定着には個人差があることがわかりました。
プロバイオティクスを内服した10人のうち、6人は下部腸管の粘膜に多くのプロバイオティクスが検出されましたが、残りの4人は定着に抵抗性があったのです。特に2人の被験者では高度な定着を認めました。
そこで、腸管に定着しやすい人を“Permissive”、しにくい人を“Resistant”と呼ぶこととし、“Permissive”と“Resistant”の間で、糞便中に検出されるプロバイオティクスの量が異なるかを調べましたが、両者に大きな差はありませんでした。
この結果から、マウスの場合とは違い、ヒトへのプロバイオティクスの定着には大きな個人差があること、その差は糞便解析では検出できないこともわかりました。
プロバイオティクス投与前の細菌叢が定着の程度と関連する
次に、プロバイオティクスの定着に関わる要因の同定を試みました。
“Permissive”と“Resistant”の人で、サプリ摂取前の下部消化管粘膜にもともと存在するプロバイオティクス11菌種の量を比べたところ、“Permissive”の人でこれらの菌がもともと少ないことがわかりました。各菌種ごとに見ていくと、唯一定着しなかったBifidobacterium bifidumは“Permissive”の人で多かったですが、その他の菌は“Resistant”の人が多かったのです。
そして“Permissive”の人と“Resistant”の人の腸内細菌叢の違いがプロバイオティクスの定着に影響を与えるかを調べるために、マウスを使った実験をしました。具体的には“Permissive”、“Resistant”それぞれの人のサプリ摂取前の糞便を無菌マウスに投与し、両群のマウスに計4週間プロバイオティクスを投与しました。
すると“Permissive”のヒト糞便を持ったマウスでは下部消化管を中心に定着が見られたのに対し、“Resistant” のヒト糞便を持ったマウスではプロバイオティクスの定着に抵抗性を示しました。
つまり、サプリ投与前の細菌叢が定着の程度を左右するとわかりました。
“Permissive”と“Resistant”の人でプロバイオティクスによる効果が異なる
最後にプロバイオティクスが細菌叢全体、さらには宿主であるヒトに対してどのような影響を及ぼすかを調べました。具体的には16S rRNAシークエンス、メタゲノムシークエンス、さらには小腸のトランスクリプトーム解析を網羅的に行いました。
結果をまとめると、プロバイオティクスによる糞便の細菌叢の変化は有意に認めるものの、その変化の程度は大きいものではなく、上部ならびに下部消化管の細菌叢の変化は認めませんでした。
しかし細菌叢の変化に比べて、小腸の遺伝子発現の変化は大きく、免疫系の遺伝子を含めて計213の遺伝子で発現変化が確認されました。
また“Permissive”の人と“Resistant”の人に区分してこれらの解析を行うと、“Permissive”の人のほうがプロバイオティクスによる細菌叢の変化が大きいことがわかりました。そして“Permissive”の人は、細菌叢中の菌の種類は少ないが、糞便中の菌の総量は多いこともわかりました。
個人に適したプロバイオティクスの開発へ
このように実験動物であるマウスとは異なり、ヒトでは健常な人同士であっても異なる腸内細菌叢を持っており、プロバイオティクスによる効果も人それぞれであることがわかります。
次世代型のプロバイオティクスとして、各個人の細菌叢を調べた上でその人に最適な菌種を配合するような時代が来ることが期待されます。
参考文献
- Zmora N, et al. Personalized Gut Mucosal Colonization Resistance to Empiric Probiotics Is Associated with Unique host and Microbiome Features. Cell. 2018; 174(6): 1388-1405.