2018年12月25日

プロバイオティクスは腸管粘膜に定着するか(マウスの場合)

人々の健康意識が広がり健康食品に対する注目が集まる中で、プロバイオティクスの売上げも年々増えています。

プロバイオティクスは、「ヒトに良い影響を与える生きた微生物(いわゆる善玉菌)を含む製品や食品」の総称で、「腸内フローラのバランスを改善します」といううたい文句も聞いたことがあるかもしれませんが、実際にその効果を調べても一定の結論は得られていません。

病院で処方される整腸剤もプロバイオティクスの一種ですが、治療効果に対する科学的根拠が多く示されているわけではないので、医師もおまじない程度に処方しているケースが多いと思います。

今回ご紹介する論文は、プロバイオティクスは本当に腸内細菌叢に影響を与えるのか、という疑問に答えるための研究です。1)

消化管の細菌叢の網羅的な解析

これまでのほとんどの試験では、プロバイオティクスの効果を調べるために、糞便の菌叢を解析しています。しかし、糞便のみの解析で十分なのかどうかはこれまで知られていませんでした。そこで糞便の菌叢が、上部や下部消化管の粘膜ならびに管腔の菌叢とどれほど異なるのかを調べるために、ヒトならびにマウスで網羅的な解析を行いました。

具体的に、25人の健常人に胃カメラと大腸カメラを用いて、胃から下部結腸、大腸にいたる11の部位からサンプリングを行いました。

まず菌量については、糞便が最も多く、次に大腸、下部結腸の順で、胃や十二指腸が最も少ない結果でした。菌の組成については、16S rRNAシークエンス(unweighted UniFrac解析)ならびにメタゲノムシークエンス(MetaPhiLan2での菌の同定、Bray-Curtis)で解析したところ、上部消化管が最も糞便と異なり、次に下部結腸、そして下部消化管の順でしたが、それでも最も遠位の直腸と糞便とでは組成が異なる結果でした。具体的には、糞便ではRuminococcus obeumCoprococcus catusDorea longicatenaEubacterium rectaleが多く、下部消化管の粘膜ではBacteroides thetaiotaomicronParabacteroidesが特徴的でした。

細菌叢の機能についても同様に調べたところ、やはり上部消化管が最も糞便と異なり、下部結腸、下部消化管の順となりました。

つまり、糞便内と消化管内の細菌叢は、距離が離れるほど菌の組成や機能が異なり、プロバイオティクスの定着や菌叢への影響を調べる際に糞便のサンプルのみで解析を行うのは限界があることを示唆しています。

この結果はマウスでもほぼ同様でした。すなわちマウスでも菌の組成は、消化管の部位によって異なり、糞便と同じ組成の消化管部位はありませんでした。また上部消化管では他の部位に比べて、プロバイオティクスで使われるラクトバシルス属(Lactobacillusビフィドバクテリウム(ビフィズス菌)属(Bifidobacteriumラクトコッカス属 (Lactococcus)が多いことも特徴的でした。

サプリメントの中のプロバイオティクスは生きている

次に、プロバイオティクスの効果を調べるために、市販のプロバイオティクスによく含まれている主な4つのグラム陽性菌(LactobacillusBifidobacteriumLactococcusStreptococcus)のサプリメント(Bio-25、Supherb社)を用意しました。具体的にはLactobacillus acidophilusLactobacillus caseiLactobacillus casei sbsp. paracaseiLactobacillus plantarumLactobacillus rhamnosusBifidobacterium longumBifidobacterium bifidumBifidobacterium breveBifidobacterium longum sbsp. infantisLactococcus lactisStreptococcus thermophilus の11菌種です。

サプリメントの錠剤の中に入っているプロバイオティクスが生きた状態で存在しているかを調べるため、錠剤を培養しない状態もしくは培養した後に16S rRNAシークエンスを行いました。

しかし、11菌種のうち4菌種のみ(L. acidophilusL. caseiB. longumB. bifidum)しか確認することができませんでした。そこでメタゲノムシークエンスを行うと、11菌種のうち10菌種まで確認することができました。確認できなかったB. longum sbsp. infantisについては、B. longum sbsp. infantisのみを培養したうえでMetaPhiLan2で解析すると、B. longumと同定されました(これはおそらくB. longum sbsp. infantisB. longumの間の菌株の不均一性が高いことが原因)。

次に錠剤からDNAを抽出し、それぞれの菌種に特異的なプライマーで増幅させqPCRを行うと、11菌種全てを確認することができました。さらに錠剤を無菌マウスに投与し、5日後の糞便を培養すると、B. longum sbsp. infantisを除くすべての菌を培養することができました。

これらの結果から、B. longum sbsp. infantisについては若干の疑問が残るものの、ほかの10菌種は錠剤内で生きていることが確認できました。

プロバイオティクスはマウスの腸管粘膜へ定着しにくい

プロバイオティクスがマウスの消化管にどの程度定着するかを調べるために、次のような実験をしました。

通常マウスを用いて毎日プロバイオティクスの錠剤を投与し、定期的に糞便を採取しながら、28日後に解析を行いました。糞便のqPCRでは、投与前と比べて増加したのはB. longumS. thermophilusのみでした。そして全11菌種すべてを考慮した解析では、投与期間中は平均して8.6倍の増加、28日後には15倍の増加を認めました。

次に、28日後に採取した消化管からサンプルを集めて、各部位でのプロバイオティクスの定着を調べました。16S rRNAシークエンスの解析では、LactobacillusBifidobacteriumLactococcusStreptococcusの各属は、どの消化管部位でも差はありませんでした。特異的なqPCRの解析でも、それほど差は大きくなく、粘膜部位では盲腸でS. thermophilusの増加を認めたのみでした。なお、胃ならびに下部大腸で5〜7菌種の増加を認めました。

上記の結果は、すでに定着しているマウスの細菌叢が、プロバイオティクスの定着を妨げているからであると考えられます。そこで、無菌マウスに同じ錠剤を投与して、プロバイオティクスがどれくらい定着するかを検討しました。

予想通り、無菌マウスにはプロバイオティクスは多く定着し、通常マウスと比べて上部消化管の管腔は10倍、上部の粘膜は5倍、下部の管腔では50倍、下部の粘膜では20倍も多いことがわかりました。

つまり、通常マウスでは毎日プロバイオティクスを投与しても、消化管粘膜に定着する割合はごくわずかであり、もともとの細菌叢がプロバイオティクスの定着をさまたげていると考えられます。

糞便を調べても、すでにいる細菌叢への影響はわからない

先ほどの通常マウスにプロバイオティクスを投与した実験で、各消化管にもともといる細菌叢にどのような影響を与えたかを調べました。Unweightedとweighted UniFrac解析の両者で、プロバイオティクスは糞便の細菌叢に影響を与えないことがわかりました。

一方で消化管を調べると、上部消化管では管腔、粘膜部位ともにプロバイオティクスによる菌叢の変化はありませんでしたが、下部消化管では一定の細菌叢の変化を認めました。またその菌叢の変化は、管腔よりも粘膜部位で顕著であり、下部消化管粘膜でプロバイオティクスにより増えた菌は、その多くがもともと口腔内もしくは胃内によく共生しているものでした。菌種の数は、下部消化管では変化がありませんでしたが、上部消化管ではプロバイオティクスで増加しました。

この結果は、プロバイオティクスは大腸粘膜の細菌叢を変化させるものの、その変化は糞便では観察されないことを意味します。

次回は本論文のつづきで、プロバイオティクスの投与がヒトの菌叢にどのように変化させるかをお伝えします。

参考文献

  1. Zmora N, et al. Personalized Gut Mucosal Colonization Resistance to Empiric Probiotics Is Associated with Unique host and Microbiome Features. Cell. 2018; 174(6): 1388-1405.