2018年5月8日

腸内細菌移植が自閉症の症状を改善することが示唆された

執筆:松村むつみ

自閉症と腸内細菌には、腸脳相関を介して関連があると言われています。前回は、プロバイオティクスを摂取して腸内細菌のバランスを整えることにより自閉症の症状を改善するかを検証する、現在進行中の研究を紹介しました。

自閉症へのプロバイオティクス有効性を検証する研究が進行中

今回は、腸内細菌移植により自閉症の症状が改善するかを検証した研究を紹介します。小規模のオープンラベル研究です。

Kang DW et al. Microbiota Transfer Therapy alters gut ecosystem and improves gastrointestinal and autism symptoms: an open-label study. Microbiome 5, 10 (2017)

腸内細菌移植で自閉症患者の消化器症状と行動障害が改善

【対象と方法】

対象:18人の小児(7〜16歳)

対照群:20人の定型発達の小児(18週間の観察のみで治療介入はなし)

【方法】腸内細菌移植

2週間(Day1〜14)の抗生物質(バンコマイシン)投与後、MoviPrepという下剤を用いて腸洗浄(Day15)を行う。Day12〜74にかけて継続的にプロトンポンプ阻害薬であるオメプラゾールを投与する。Day16より、当初は毎日移植する腸内細菌を高容量で投与した後、7〜8週間は低容量で投与を継続する。

移植する腸内細菌は、SHGM(Standardized Human Gut Microbiota)という種類を用い、経口および経肛門的に投与する。経口では、Day16, 17に高容量(トータル細胞数2.5×1012を3回に分け投与)で、Day18〜74には維持量(細胞数2.5×109/day)で投与を継続する。
経肛門的には、Day16に高容量(細胞数2.5×1012を1日1回)を投与し、Day25〜74で維持量(細胞数2.5×109/day)を投与する。

【評価法】

両親が、子供たちの便サンプルをDay0, 21, 70, 126に採取し、スワブをDay0, 14, 21, 28, 42, 56, 70, 84, 98, 112, 126で採取する。

1)消化器症状の評価:

Gastrointestinal Symptom Rating Scale(GSRS): 15の質問に基づいて5項目(下痢、腹痛、逆流、消化不良、便秘)でスコアリングする。Day0,14,21,28,35,42 56,74,130に評価。スコアの低下が50%未満でノンレスポンダーと定義する。

Daily stool records(DSR):治療期間の2週間と、観察期間最後の2週間は毎日記録する。1-7のスケールで記録する。

2)自閉症症状の評価:

ADI-R、Parent Global Impressions-III(PGI-III)、Childhood Autism Rating Scale(CARS)、Aberrant Behavior Checklisrt(ABC)、The Social Responsiveness Scale(SRS)The Vineland Adaptive Behavior Scale-II(VABS-II)

3)腸内細菌のDNA解析:

16S rRNA解析、OTUsの作成

【結果】

・腸内細菌移植後、自閉症児ではGSRSにて、腹痛、消化不良、下痢、便秘について著明な改善がみられ、スコアが82%低下した。症状は、治療をやめて8週間後も改善が維持された(72%のスコア低下)。

・自閉症の行動障害においても、PGI-III、ABC、SRS、CARSなどの指標において、有意な改善がみられた。CARSでは、治療開始前より、治療終了後は22%、観察期間終了後で24%の改善が見られた。

・治療前には、定型発達の対照群と比べて腸内細菌叢の多様性は劣っていたが(p=0.027)、治療によって多様性改善がみられ、ビフィドバクテリウム(ビフィズス菌)(bifidobacterium)属, プレボテラ(Prevotella)属、デスルホビブリオ(Desulfovibrio)属の割合が増加し、観察期間終了後も維持されていた。

【結論】

腸内細菌移植により、自閉症の消化器症状と、自閉症の行動障害が改善することが示唆された。

薬物療法に代わる有力な治療法となる可能性

今回紹介した研究で、自閉症の小児に腸内細菌移植を行うと、消化器症状のみならず、自閉症の症状も改善されるということが示されました。

小規模研究であり、二重盲検のRCTではないなどの制限があり、さらなる研究が必要であることは言うまでもありません。しかし、腸内細菌叢を整えることで自閉症の症状が改善され、それが維持されるのであれば、薬物療法に代わる有力な治療法となってゆく可能性があると思われます。