2017年9月26日

腸内細菌と喘息とのかかわり——妊娠中のビタミンD投与は乳児の腸内細菌構成に影響を与えるか

近年の研究で、腸内細菌と、喘息などのアレルギー疾患に関わりがあることがわかってきました。今回は、注目したい論文を2本紹介します。

喘息と授乳、食事、腸内細菌の関係を振り返る

2017年8月に出された総説論文によると、腸内細菌と、喘息などのアレルギー疾患について以下のようなまとめがなされています。

Ozturk AB, Turturice BA, Perkins DL, et al. “The Potential for Emerging Microbiome-Mediated Therapeutics in Asthma.” Curr Allergy Asthma Rep. ;17(9):62.

1.非衛生的な環境や大家族で育った人のほうが、喘息の有病率は低い。幼児期に微生物に接触する機会が多いことが、喘息やアレルギー疾患の予防につながる可能性がある。

2.授乳は、Bifidobacterium(ビフィドバクテリウム(ビフィズス菌))属とLactobacillus(ラクトバシルス)属などの善玉菌を増やすといわれている。これらの菌が少ないと、アレルギー疾患になりやすいといわれている。

3.ビフィズス菌やラクトバシルス属は、短鎖脂肪酸を産生する菌の増殖を許容する可能性がある。短鎖脂肪酸は、免疫反応を抑制する制御性T細胞の発育を促進する可能性があるといわれている。アレルギー疾患のある子どもの便では、短鎖脂肪酸の検出量が減っているという報告がある。

4.これまでの観察研究では、西洋式の高脂肪・低食物繊維食をとるグループでは喘息の有病率が高く、野菜や魚介類が多い地中海式の食事は喘息の発症を抑える可能性が示唆されている。ビタミンC, D, Eの摂取も、喘息の発症を抑える可能性がある。食事の内容は、腸内細菌叢の構成に影響する。

5.プロバイオティクスが喘息の発症を抑制したという報告は散見されるが、エビデンスとしては不十分である。糞便移植療法については、喘息を改善するというエビデンスはない。

以上のまとめで、喘息と腸内細菌との関係性で、現時点で解明されていることがご理解いただけるかと思います。また、これには書かれていませんでしたが、バクテロイデス抗原が制御性T細胞のはたらきを高めることが報告されています。

3〜6ヶ月の乳児の腸内細菌叢に影響を与える要素は?

これらをふまえたうえで、もうひとつの研究を紹介したいと思います。

Sordillo JE, Zhou Y, McGeachie MJ,et al. “Factors influencing the infant gut microbiome at age 3-6 months: Findings from the ethnically diverse Vitamin D Antenatal Asthma Reduction Trial (VDAART).” J Allergy Clin Immunol. ;139(2):482-491.

これはアメリカで行われた、VDAART研究がもとになっています。VDAART研究は、妊娠中にビタミンDを投与した量により、子どもの喘息発症を抑えられるかを検証した前向き研究です。本研究の研究成果は、JAMAにLitonjua AAらによって2016年に発表され、「統計学的に有意差は出なかったが、ビタミンD投与群では喘息発症率がやや低く、引き続き経過観察が必要である」との結果でした。

今年に発表された論文では、VDAART研究に登録した症例から生まれた3〜6ヶ月の乳児の便を採取して、人種やビタミンD濃度、授乳の有無、分娩の様式(自然分娩か帝王切開か)などの要素と、腸内細菌叢の構成が関連しているかを調べたものです。

【対象と方法】

VDAART研究にエントリーした母親から生まれた乳幼児の便サンプルを対象としている。VDAARTへのエントリーは、二重盲検、プラセボ対照群設定、ランダム化により行われている。自身あるいは配偶者に喘息またはアレルギー疾患のある妊婦が登録し、妊娠初期に2群に分けられ、それぞれ4000IUのビタミンDと400IUのビタミンDを投与された。810人の乳児が分娩され、うち333人から便サンプルが得られた。

カルテやアンケート調査から、人種、分娩の様式、母乳栄養/混合栄養/人工乳の別、母体の肥満の有無、妊娠糖尿病の有無、ペット飼育の有無などを調べた。また、乳児の血液中ビタミンD濃度測定も行われた。3〜6ヶ月における乳児の便サンプルを採取して腸内細菌構成を調べ、多様性をShannon指数で評価。上記のさまざまな要素と腸内細菌構成の関係については、多変量解析が行われた。

【結論】

・白人の乳児では、腸内細菌の多様性は低下していたが、バクテロイデーテス門の菌の割合が増加していた。

・帝王切開で生まれた子供の便からは、ファーミキューテス門の菌が多く検出された。

・母乳栄養の乳児の便では、Clostridium(クロストリジウム)属が少なかった。

・血中ビタミンD濃度は、Lachnobacterium(ラクノバクテリウム)属の増加と、Lactococcus(ラクトコッカス)属の減少に相関していた。

この論文では、人種や出産方法、授乳の有無などが腸内細菌叢の構成に影響していることが示唆されました。腸内細菌叢と喘息の発症には何らかの因果関係がありそうですが、さらに長期にわたるフォローアップが必要、かつ、遺伝や代謝分野からのアプローチも必要であると述べられています。

腸内細菌を利用した治療法確立にはさらに多くのデータ蓄積が必要

喘息と腸内細菌のかかわりについて、2つの論文をご紹介しました。喘息やアレルギー疾患の発症において、腸内細菌は重要な役割を果たしていると考えられますが、腸内細菌を利用した具体的な治療法の確立には、さらに多くのデータ蓄積が必要であることは言うまでもありません。