2017年8月22日

食事と腸内細菌がいかに老化に影響するか

前回(腸内細菌が作るコラン酸が線虫の健康寿命を延ばす)にひきつづき、老化と寿命のお話です。今回は、線虫やショウジョウバエを用いた研究から明らかになった、腸内細菌が寿命に影響を与えることを表すいくつかの例をご紹介します。1)

老化にはさまざまなメカニズムが関わる

老化に関わるメカニズムとして、インスリン様シグナル、TORシグナル、サーチュイン遺伝子などが知られています。インスリン様シグナルはグルコースに、TORシグナルはアミノ酸やATP濃度に、サーチュインは代謝のメディエーターであるNADによってそれぞれ制御されています。これらのことから、進化的に保存された寿命制御経路は、エネルギー代謝と深く関連していることがわかります。

また、これまでの研究によると、老化を遅らせ寿命を延ばす最も確実な方法は、カロリー制限です。カロリー制限とは、栄養障害を起こさずに食事からの摂取カロリーを30~40%程度減らす食事を行うことです。カロリー制限には老化を遅らせて寿命を延ばし、老化に関連する病気の発症を遅らせる効果が認められています。

今回紹介する研究は、これにプラスして、腸内細菌も老化や寿命に関わっているようだ、というものです。

腸内細菌の作る一酸化窒素が線虫の寿命を延長させる

一酸化窒素(以下NO)は、生体内で記憶形成や血圧コントロールなどの多彩な機能を担っています。また、酵素や転写因子などのタンパク質が、NOによって翻訳後修飾を受けることも知られています。

しかし、C. elegansは、真核生物の中では珍しくNO合成酵素を持たないため、自身でNOを産生できません。C. elegansは、自然界では土壌に多く生息する線虫であり、Bacillus subtilisバチルス・サブティリス、枯草菌)を摂取しています。このB. subtilisにはNO合成酵素があり、Bacilliの産生するNOが、線虫に対して生理的な作用を及ぼしていることがわかりました。

実際、NO合成酵素を欠損させた(つまりNOを産生できない)B. subtilisC. elegansに摂取させると、寿命が短くなりましたが、そこにNOを直接投与すると寿命は延長しました。つまり、B. subtilisを摂取している線虫は、自分でNOを作ることができない代わりにB. subtilisにNOを作ってもらい、そのNOを利用して寿命が伸びるという生理的な作用を発揮しているようです。2)

糖尿病薬が腸内細菌を介して線虫の寿命を延長させる

糖尿病に対して広く使われている飲み薬にメトホルミンがあるのですが、その効果は血糖値を下げるのみではなさそうです。

カロリー制限を行うと、細胞内のエネルギーセンサーであるAMPKが活性化することにより寿命を延長させることが知られています。ところが、メトホルミンをC. elegansに投与することによってもAMPKが活性化され、C. elegansの寿命が延長することがわかりました。

しかも、C. elegansに直接メトホルミンが作用するのではなく、腸内細菌を介しての間接的な効果であるようです。なぜなら、腸内細菌のいないC. elegansにメトホルミンを投与しても、寿命の延長効果が見られなかったからです。

さらに調べていくと、メトホルミンは腸内細菌の葉酸代謝を抑える作用があり、結果として菌中のメチオニン産生量が減少し、宿主であるC. elegansのAMPKが活性化されるようです。3)

菌種に特異的な寿命への効果

菌種によっても、寿命への影響は異なるようです。

研究室でC. elegansを飼育する際には、通常E. coli OP50を食餌としていますが、自然界では土壌にある様々な菌を摂取しており、そのうちの一つにComamonas DA1877があります。なんと、Comamonas DA1877を摂取した線虫は、E. coli OP50を摂取した線虫に比べて、寿命が短縮することがわかりました。

2種類の食餌をそれぞれ摂取したC. elegansの遺伝子発現を比べたところ、acdh-1という遺伝子が栄養センサーとしてはたらいていることが判明しました。つまり、E. coli OP50はacdh-1の発現を上げるが、Comamonas DA1877はacdh-1の発現を抑えているようです。

この遺伝子が寿命の延長に関与しているかどうかまではまだわかっていませんが、最初に紹介した老化に関わるメカニズムのうち、TORやインスリンシグナルとは関係なさそうです。4)

ショウジョウバエを用いた老化研究

これまで述べてきたように、線虫は寿命の研究を行ううえで非常にパワフルなツールであり、無菌状態で飼育すると寿命が延長することがわかっています。

しかし、線虫にとっては、菌は共生微生物であると同時に食餌でもあるため、寿命の延長がカロリー制限によるものか無菌状態によるものかは、区別するのが難しいのです。

他のモデル生物としては、ショウジョウバエが用いられます。ショウジョウバエは20種類程度の菌種を持っており、菌が食餌にもなりません。ショウジョウバエを無菌状態で飼育すると、寿命が延長するという報告もあれば、寿命は変わらないという報告もあり、意見が分かれています。その原因のひとつとして、研究室間でショウジョウバエが保有している常在菌叢が異なる、という問題点が指摘されています。

今後はノトバイオート(無菌動物に既知の微生物を定着させた、という意味)のショウジョウバエを用いて、各菌が加齢や老化に対してどのような影響を及ぼすか、ということが次第に明らかになっていくでしょう。

参考文献

  1. Heintz C, et al. You are what you host: microbiome modulation of the aging process. Cell. 2014; 156(3): 408-11.
  2. Gusarov I, et al. Bacterial nitric oxide extends the lifespan of C. elegans. Cell. 2013; 152(4): 818-30.
  3. Cabreiro F, et al. Metformin retards aging in C. elegans by altering microbial folate and methionine metabolism. Cell. 2013; 153(1): 228-39.
  4. MacNeil LT F, et al. Diet-induced developmental acceleration independent of TOR and insulin in C. elegans. Cell. 2013; 153(1): 240-52.