2017年8月8日

腸内細菌の多様性は体重増加と関係がありそうだ——最新の研究結果

以前から、さまざまな研究で示唆されてきた腸内細菌と肥満との関連ですが、今年3月、長期的な大規模観察研究の結果が発表されたのでご紹介します。

Menni C, Jackson MA, Pallister T et al. (2017) “Gut microbiome diversity and high-fibre intake are rekated to lower long-term weight gain” International Journal of Obesity 41:1099-1105

肥満に関係するのは、遺伝、食事、運動、そして腸内細菌叢

この研究は、ロンドン大学キングズ・カレッジの双子に関する遺伝学・疫学研究部門で行われました。これまで同部門では、TwinsUKという双子データベースを用いた腸内細菌研究が、コーネル大学との共同研究でいくつか発表されています1,2

肥満はこれまで、遺伝的な問題とされる一方、古典的なリスクファクターとして、高カロリー食や運動不足などが挙げられてきました。しかし、同じカロリーを摂取して同程度の運動をしても、太る人と太らない人がいます。近年の動物実験やヒトの観察研究から、食事や運動以外で肥満の後天的リスクファクターとして腸内細菌の多様性が挙げられるようになりました。

人間の腸内には成人一人あたり約100兆個、重さにして約1.5kgの腸内細菌が住んでいるといわれています。これまでの研究で、腸内細菌に多様性がなくなると肥満になりやすいということが示されています。

以前、これに関する基礎研究がMykinsoラボでも紹介されました(コラム4 – 腸内細菌が肥満を予防?カギは短鎖脂肪酸)。腸内細菌の生息していないマウスに、肥満の人からの腸内細菌を移植すると、痩せた人から移植したマウスよりも太りやすいという研究結果があります。また、肥満のメカニズムに、腸内細菌が食物繊維から作り出す短鎖脂肪酸がかかわっていることなどが紹介されています。

これまでの研究でわかっていること

今回の研究紹介の前に、腸内細菌に関して、これまでわかっていることをおさらいします。

・腸内細菌は、肥満、1型・2型糖尿病、高血圧などの生活習慣病や、肝硬変、各種炎症性疾患など、多種多様な疾患と関わっていることが明らかになっている3,4

・腸内細菌に関して、遺伝的要素は30〜37%を占める。60%以上は食事などの環境要因により決定される2。食事要因で最も影響するのは食物繊維の摂取量である。

・抗生剤およびプロトンポンプ阻害剤は、腸内細菌の構成に影響する3

・腸内細菌の多様性に乏しいと、肥満になりやすいことが示唆されている3,4,5,6。 人間の腸内細菌は、バクテロイデーテス門、ファーミキューテス門、アクチノバクテリア門、プロテオバクテリア門に属する菌でほとんどが構成されているが、肥満者ではバクテロイデーテス門が減少し、ファーミキューテス門が増加しているとの報告がある5が、反対の結果も報告されており、多様性の減少が肥満につながると解釈されている。

・腸内細菌と肥満との関係には、短鎖脂肪酸が中心的な役割を果たしていると考えられている7。腸内細菌は、食物繊維を発酵することで短鎖脂肪酸を産生する。そして短鎖脂肪酸は、組織のインスリン感受性を高める7

今回の研究は1632人の女性が対象

本論文の意義は、人間において、長期的な体重増加と腸内細菌叢の多様性との関わりが示唆されたことです。これまで、人間の体重増加や減少についての大規模データがほとんどありませんでした。医学研究では、ある仮説が試験管内やマウスで証明されても、人間で同じように証明されるとは限りません。多数を集めた人間での研究で証明されてはじめて、臨床で役立つデータとなるのです。対象と方法、結果およびそれに対する解説を下に示します。

対象と方法

TwinsUKという、国による双子研究データベースに登録している成人した双子を対象とし、筆者らは1632人のコーカソイド系女性に背景を統一して対象を絞っています。年齢は20〜74歳と幅広く、平均年齢はフォローアップ開始時50歳、フォローアップ終了時59歳でした。対象は健常者のボランティアで、特定の疾患などがあって選別されたわけではありません。身長、体重、BMI、カロリー摂取や運動量、腸内細菌叢に関して平均9.09年±3.45年間のフォローアップが行われました。

カロリー摂取や運動量に関しては、アンケートの回答をもとに解析が行われました。食事のアンケートは131項目からなり、データベースより食物繊維と飽和脂肪酸の量が算出されました。食物繊維と飽和脂肪酸の量は摂取カロリーの量で調整して解析されました。体重増加に関しては、年齢、性別、喫煙の有無、カロリー摂取、運動量、もとのBMIで調整しました。

フォローアップ中、便を採取し、腸内細菌叢の構成が解析されました。腸内細菌叢の多様性の指数としては、shannon指数、shimpson指数による評価が行われました。統計解析では、長期における体重変化と腸内細菌叢の多様性の関係を、プロトンポンプ阻害剤や抗生物質摂取の有無などの要素で調整して解析しました。

結果——多様性の減少と体重増加が相関した

体重が増加した群では、有意にshannon指数、shimpson指数のいずれも低い結果となり、多様性の減少が長期における体重増加にかかわっている可能性が示唆されました。

また、食物繊維の摂取が多いほど、腸内細菌叢の多様性は保たれているという結果になりました。さらに、バクテロイデーテス門の存在は、腸内細菌叢の多様性の低下と負の相関があることが示されました。

いずれも、これまでのマウス研究や、ヒトを対象とした小規模研究の結果を裏づける結果となっています。

これからの大規模データ解析に期待

今回は、腸内細菌と肥満の関係に関する、人間における大規模観察研究を紹介しました。今後も、人間における大規模なデータがさらに解析されて、臨床に役立つ研究成果がさらに明らかになっていくことが望まれます。

参考文献

  1. Goodrich et al. (2014) “Human genetics shape the gut microbiome.” Cell. 159(4):789-99.
  2. Goodrich et al. (2016) “Genetic determinants of the gut microbiome in UK twins” Cell Host Microbe. 19(5):731-743.
  3. 坊内ら(2015)「肥満、糖尿病と腸内細菌」日本内科学会誌104:57-65
  4. 入江ら(2015)「腸内細菌叢と肥満症」日本内科学会誌104:703-709
  5. Turnbaugh PJ et al. (2006) “An obesity-associated gut microbiome with increased capacity for energy harvest.” Nature 444:1027-1031
  6. Le Chatelier et al. (2013) “Richness of human gut microbiome correlates with metabolic markers” Nature 500:541-546
  7. Kasubuchi et al. (2015) “Dietary gut microbial metabolites, short-chain fatty acids, and host metabolic regulation.” Nutrients. 7(4):2839-49