2017年7月18日

ウサギにプロバイオティクス——抗生物質の問題を解決できるか?

「腸内」と聞いて、どんな場所をイメージしますか? 胃や腸などの消化管は体の中にありますが、口から肛門までの消化管の中は、実は外界と言っても過言ではありません。食事や飲み水などとともに、有益なものも、悪影響をもたらすものも、外界の細菌は常に消化管内に侵入しています。悪影響をもたらす細菌から体を守るためには、胃酸などの化学的防御だけでなく、腸内細菌叢のバランスも重要です。

乳酸菌などのプロバイオティクスは、腸内に有益な細菌を送り込んで、腸内環境を改善する、成長を促進するなどの効果があり、長年に渡って研究され、注目されてきました。また、抗生物質の乱用による耐性菌の増加は近年深刻な問題になっていますが、それを防ぎつつ抵抗性は身につけるという観点からも、プロバイオティクスに注目が集まっているようです。

そして、そのプロバイオティクスはウサギにとっても有益なはたらきをするようです。今回は、そんなウサギにおけるプロバイオティクスの効果についてご紹介いたします。

子ウサギの成長を促進するプロバイオティクス

離乳期である生後28日から、いわゆる乳酸菌に含まれるラクトバシルス属のLactobacillus acidophilus(以降Lと表記)、および土壌や植物や消化管内に常在して枯草菌とも呼ばれるバチルス属のBacillus subtilis(以降Bと表記)を、それぞれ単独または混合で子ウサギの食餌に添加し、42日齢および70日齢で成長などの指標を測定する実験が行われました。

対照群に比べて混合添加群では、体重は増加し、成長率も高く、成長に必要とされる飼料量の指標である飼料要求率(飼料量あたりの体重増加量の割合)もよいという結果でした。28日から70日齢までの、いわば成長期の体重増加率は、混合およびL単独添加群で高くなりました。

消化効率を上げ、有益な細菌を増やす

高成長の原因と考えられるのが、栄養素の消化率の向上です。

以前、ウサギの腸内細菌叢はウサギに栄養を供給する重要なシステムであることをご紹介しました。今回のプロバイオティクス添加実験では、L単独やLB混合で添加することで、対照群に比べて、粗タンパク質や繊維などの消化率が上昇すること、総エネルギー量や可消化養分総量が増加することが示されました。

また、L単独添加群では対照群に比べて、特に発酵に大事な盲腸、その他結腸や腸管全体において、有益な細菌ラクトバシルス属の細菌の増加が見られました。そして、腸炎などの原因となる大腸菌群は、L単独添加群で減少するという結果でした。

免疫も向上

別の実験では、枯草菌であるBを食餌添加した場合の免疫機能について調べられました。離乳後の35日齢から与え続け、5週目に1gあたり106個を添加すると、粘膜や体液中ではたらく免疫グロブリンであるIgAおよびIgGの増加が最大となりました。同じ時期に細菌叢構成も変化し、セルロースを分解するルミノコッカス属の細菌の割合が相対的に増加し、クロストリジウム属などの悪影響を持つ菌が減少していることが明らかになりました。

また、5週目以後7週目にかけて、同様に液性の免疫に関与する、いくつかのインターロイキンやディフェンシンが、脾臓や空腸で発現量が増加していました。中にはIL-8のように脾臓で10倍以上、β-ディフェンシンのように脾臓と空腸で2〜3倍、と大幅な増加を示したものもありました。大腸菌の感染実験でも、B添加群は生存率が高いという結果でした。

プロバイオティクスで抗生物質の問題を軽減できるかもしれない

これまでにもウサギの腸内細菌叢には、生存に重要なはたらきがあることを紹介してきました。

腸内細菌も細菌なので、抗生物質の影響を受けます。そのため、草食で腸内細菌叢の発酵から栄養を摂っているウサギなどに抗生物質を使うときは、他の動物以上に細心の注意が必要なのです。不適切な投薬で有益な腸内細菌が死に、腸内発酵に問題をきたして死に至ることも珍しくありません。

プロバイオティクスは、そのような問題を軽減するのにも役に立つ可能性があるでしょう。

■参考文献

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