2018年1月23日

偽膜性腸炎への糞便移植は「凍結便」でも有効か?

偽膜性腸炎は、抗生剤の投与により正常の腸内細菌叢が崩れ、菌交代現象が起こった結果、ある種の菌が異常に増殖することで引き起こされる大腸の炎症です。多くはClostridium difficileによる感染性腸炎の病態を呈し、内視鏡下で大腸が偽膜とよばれる薄い膜をはったように見えることが特徴であり、院内感染においてもしばしば問題になる感染症です。

今回は2016年にLeeらが『JAMA』に報告した、偽膜性腸炎に対して凍結した糞便と新鮮な糞便を投与して治療したRCTの結果を紹介します。

Lee CH, Steiner T, Pertof EO, et al. Frozen vs Fresh Fecal Microbiota Transplantation and Clinical Resolution of Diarrhea in Patients With Recurrent Clostridium difficile Infection: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016 ;315(2):142-9. doi: 10.1001/jama.2015.18098.

偽膜性腸炎に糞便移植は有効だが鮮度が問題

偽膜性腸炎は従来、メトロニダゾールやバンコマイシンなどでの治療が試みられてきましたが、近年、治療抵抗性のケースが増えています。繰り返し再発するケースに関しては、ワクチンやモノクローナル抗体を使用した治療を含め、いくつかの治療法が開発途上にあります。

分子タイピング解析では、偽膜性腸炎の再発の10〜15%が同じ感染の再燃ではなく、新たな感染に基づいていることが明らかにされました。また、腸内細菌叢のバランスが崩れることで、再感染が容易になると推測されています1,2

腸内細菌叢が整っている健常者の便を移植する「糞便移植」は、偽膜性大腸炎への効果が証明されている治療法で、浣腸による移植が高い治癒率をもつことが示されています3-5。しかし、移植する糞便の鮮度を保たねばならないので、移植には技術的に困難が伴います。

そういった点で、凍結された糞便であれば、安定的に供給できる可能性があります。また、採取頻度を減らすことができるので、コストの減少も可能と考えられています。

そこでLeeらは、偽膜性腸炎に対して、凍結した糞便と新鮮な糞便で治療効果が異なるかどうか、RCTによって検討しました。

試験の概要

【対象と方法】

移植用の便は採取後5時間以内にラボに届けられ、投与または凍結されるまで5℃で保存された。便100gに対して300mlの水で溶解してガーゼで濾した懸濁液を、採便後24時間以内に投与される患者群を「新鮮便投与群」とした。一方、同様の懸濁液を-20℃で最大30日間保存し、25℃で一晩かけて解凍、24時間以内に投与された患者群を「凍結便投与群」とした。

C. difficile腸炎の再発例、および繰り返している18歳以上の症例を232例エントリーした。無作為割付・二重盲検法により、114例には凍結便を、118例に新鮮便を、いずれも浣腸により投与した。ここで「C. difficile腸炎の再発」とは、「少なくとも10日間C. difficile腸炎の治療を行い寛解した後で、8週間以内に腹痛・下痢・発熱などの症状が再燃し、少なくとも48時間持続している状態」と定義した。

評価は、臨床的に下痢が改善するか、13週間以内に再発がないかどうかで行った。副作用についても評価した。非劣性マージンを15%に設定した。

Day1に50mlの凍結便ないし新鮮便を浣腸で投与した。Day4になっても寛解が見られない症例には、再度同じドナーから便を採取し、Day5〜8に投与した。それでも改善しない人には、繰り返しの便移植、抗生剤の治療を行った。

【結果】

178例(凍結便投与群91例、新鮮便投与群87例)に対して行ったper-protocol解析では、臨床的に寛解したのが凍結便投与群で83.5%、新鮮便投与群で85.1%であった(非劣性試験にてリスク差は-1.6%, P=0.01)。

219例(凍結便投与群108例、新鮮便投与群111例)に対して行ったmITT解析では、寛解が凍結便投与群で75.5%、新鮮便投与群で70.3%であった(非劣性試験にてリスク差は4.7%, P<0.001)。

移植直後の腹痛・下痢、その後の便秘・膨満感などの副作用出現については、両群で有意差を認めなかった。

【結論】

C. difficile腸炎に対する糞便移植において、凍結便の使用が、新鮮便と比較して劣っていないことが証明された。しかし、短期間のフォローアップであるので、今後、より長期にわたる、副作用を含めたデータの蓄積が必要である。

より簡便で低コストな糞便移植に向けて

治療抵抗性であることも多い、繰り返し再発するC. difficile腸炎ですが、糞便移植がより簡便に低コストで施行できる可能性が示唆され、抗生剤の長期投与を行わざるを得ない患者さんたちには朗報と言えるでしょう。

アメリカでは「便の銀行」が設立され、便を買い取って施設に提供するという仕組みが作られています6。しかしわが国では、糞便移植はまだ研究段階であり、保険適応はなされていません。これから、わが国においても今後より多くの研究結果が積み上げられ、臨床応用につながっていくことを願うばかりです。

参考文献

  1. Barbut et al. Epidemiology of recurrences or reinfections of Clostridium difficile-associated diarrhea. J Clin Microbiol. 38(6):2386-8., 2000
  2. Norén et al. Molecular epidemiology of hospital-associated and community-acquired Clostridium difficile infection in a Swedish county. J Clin Microbiol.42(8):3635-43.,2004
  3. Nood et al. Duodenal infusion of donor feces for recurrent Clostridium difficile. N Engl J Med. 368(5):407-15.,2013
  4. Kassam et al. Fecal microbiotatransplantationfor Clostridium difficile infection: systematic review and meta-analysis. Am J Gastroenterol. 108(4):500-8.,2013
  5. Lee et al. The outcome and long-term follow-up of 94 patients with recurrent and refractory Clostridium difficile infection using single to multiple fecal microbiota transplantation via retention enema. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 33(8):1425-8., 2014
  6. 山田知輝 「便移植」日本静脈経腸栄養学会雑誌 31(3):811-816, 2016