2017年12月19日

免疫チェックポイント阻害薬の治療効果は腸内細菌叢で決まる?

がん治療の分野で新たな治療法として「免疫チェックポイント阻害薬」が注目を集めています。この薬の治療効果と腸内細菌叢の関係に着目した研究が最近の『Science』誌から2報同時に報告されました。今回はその結果を中心に紹介します。

免疫チェックポイント阻害薬とは

私たちの体の免疫システムは、体内に侵入した病原菌などを有害な異物とみなして排除する仕組みを備えています。しかしこれが過剰にはたらくと、関節リウマチなどの自己免疫疾患を発症してしまいます。そのため、免疫システムのアクセルが過剰にはたらかないよう、ブレーキをかける仕組み(免疫チェックポイント)も持ちあわせています。

がん細胞は異物なので、本来ならば免疫により排除されるべきなのですが、がん細胞自体が免疫システムにブレーキをかけて、排除されにくい環境をつくりだしています。

免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞がかけたブレーキを解除し、適切な腫瘍免疫を誘導する薬剤です。日本では現在、悪性黒色腫、非小細胞肺癌、ホジキンリンパ腫、腎細胞癌を中心に適応が認めており、今後さらに適応が拡大することが予想されています。

免疫チェックポイント阻害薬が効かないnon-responder

がんの新たな治療法として画期的な免疫チェックポイント阻害薬ですが、いくつかの問題点もあります。

ひとつは、非常に高い薬価が医療費を圧迫することです。2017年2月に「ニボルマブ(商品名オプジーボ)」の価格が50%引き下げられたことは記憶に新しいところです。しかし新薬開発には多額のコストがかかっており、製薬業界を中心に反発を招きました。

もうひとつは、治療が奏功しないnon-responderの存在です。これについては、作用機序の異なる免疫チェックポイント阻害薬を併用する治療法の模索が進んでいますが、新たな観点として腸内細菌叢に着目した研究が報告されています。

免疫チェックポイント阻害薬に腸内細菌叢が関与している

これまでにも、免疫チェックポイント阻害薬の効能に腸内細菌叢が何らかの関与をしていることを示唆するデータはありました。

たとえば、悪性黒色腫のマウスにBifidobacterium属(ビフィドバクテリウム(ビフィズス菌))を経口投与すると、CD8陽性T細胞を中心とする腫瘍免疫が促進され治療効果を発揮し、さらに免疫チェックポイント阻害薬のひとつである抗PD-1抗体と併用すると相乗効果が得られました1)

また、別の免疫チェックポイント阻害薬である抗CTLA-4抗体では、抗腫瘍効果を発揮するためにはBacteroidales目の存在が必要不可欠です2)

しかし、これらの研究はマウスを中心に実施されたものであり、ヒトで実際にどうなのかについてはわかっていませんでした。

治療が奏功したがん患者で見つかった腸内細菌

今回、Zitvogelらのグループは、計249名の抗PD-1抗体療法を受けた肺癌、腎細胞癌、膀胱癌の患者を調べたところ、69名が抗体療法を開始するタイミングでルーチンで抗生剤の投薬を受けていました3)。抗生剤を使用した群と未使用の群で生存率を比べたところ、抗生剤を使った群で有意に生存率が低くなることがわかりました。

次に、抗PD-1抗体療法が奏功する群(responder)と奏功しない群(non-responder)で腸内細菌叢を比べたところ、奏功する群でAkkermansia muciniphilaEnterococcus hiraeが多いことがわかりました。そこで、responderとnon-responderの糞便をマウスに移植したところ、responderの糞便をもつマウスは抗PD-1抗体療法によく反応し、腫瘍サイズが小さくなりました。さらにnon-responderの糞便をもつマウスであっても、responderに特徴的であったA. muciniphilaE. hiraeを投与することで、抗PD-1抗体による十分な治療効果が得られました。

MDアンダーソンがんセンターのグループは、悪性黒色腫の患者への抗PD-1抗体療法に腸内細菌叢が重要であることを明らかにしました4)。responderとnon-responder患者の腸内細菌叢を調べると、構成が異なるだけでなく、non-responderで多様性が減少していました。responderではRuminococcaceae科やFaecalibacterium prausnitziiが多く、non-responderではBacteroidales目が多くを占めました。

治療中(後)にがんが進行せずに安定した状態にある期間の指標である無増悪生存期間(PFS)を、これらの細菌の寡多で分類すると、Faecalibacterium属が多い患者ではPFSが長く、Bacteroidales目が多い患者ではPFSが短いこともわかりました。

免疫チェックポイント阻害薬と腸内細菌療法の併用の可能性

2つの報告とも、抗PD-1抗体療法の治療効果を高める細菌は、T細胞を中心とした腫瘍免疫に関与していることを明らかにしています。今後は免疫チェックポイント阻害薬に加えて、錠剤での糞便移植で腸内環境を整える新たな併用療法の臨床試験が進んでいく見通しのようです。

参考文献

  1. Sivan A, et al. Commensal Bifidobacterium promotes antitumor immunity and facilitates anti-PD-L1 efficacy. Science. 2015; 350(6264): 1084-9.
  2. Vetizou M, et al. Anticancer immunotherapy by CTLA-4 blockade relies on the gut microbiota. Science. 2015; 350(6264): 1079-84.
  3. Routy B, et al. Gut microbiome influences efficacy of PD-1-based immunotherapy against epithelial tumors. Science. 2017, in press.
  4. Gopalakrishnan V, et al. Gut microbiome response to anti-PD-1 immunotherapy in melanoma patients. Science. 2017, in press.