シンバイオティクスはアトピー性皮膚炎の治療に有効か?メタアナリシスでの結論
腸内細菌は、アレルギー疾患とも関わりが深いことで知られています。前回の筆者のコラム「腸内細菌と喘息とのかかわり——妊娠中のビタミンD投与は乳児の腸内細菌構成に影響を与えるか」では、喘息と腸内細菌のかかわりについてとりあげましたが、今回はアトピー性皮膚炎をとりあげます。
腸内細菌叢の偏りとアトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、小児の15〜20%が発症するといわれている、比較的有病率の高い皮膚疾患です。腸内細菌叢の偏りがアトピー性皮膚炎の発症にかかわっているといわれており、アトピー性皮膚炎を発症している小児の便ではビフィズス菌が減少しているという報告がなされています(1,2)
こういった背景をもとに、これまで、プロバイオティクスとプレバイティクスを用いて腸内細菌叢のバランスを改善することで、アトピー性皮膚炎を治療するという試みがなされてきました。
プロバイオティクスは腸内細菌のバランスを整える作用をする生菌であり、ヨーグルトに含まれるビフィズス菌などが例としてあげられます。一方、プレバイオティクスは、それ自体は菌ではなく、消化管で消化吸収されないが腸内細菌のバランスを整える作用のある食品のことで、具体的にはオリゴ糖や食物繊維があげられます。
プレバイオティクスとプロバイオティクスって、なに?―いま改めて正しい知識を!
アトピー性皮膚炎に対するプロバイオティクスやプレバイオティクスの効果を検証した個々の研究の結果としては、有効性が示唆されるものであったり、そうでなかったりなど様々です。ただ、それらの有効性を示唆するメタアナリシスがいくつかみられます(3-6)。
組み合わせでアトピー性皮膚炎を治療/予防できるか
プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたものがシンバイオティクスで、1995年にGibson らにより提唱されました(7)。プレバイオティクスとプロバイオティクスを組み合わせることにより、双方の機能がより効果的に宿主の健康に有利にはたらくことが期待されています。
今回取り上げる論文は、2016年に『JAMA Pediatrics』に掲載されたメタアナリシスで、シンバイオティクスがアトピー性皮膚炎の発症を防ぐのに役立つかということについて検証したものです。
【対象と方法】
PRISMAガイドライン(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-analysis)にしたがって、Pubmed/MEDLINE, ENBASE, the Cochrane Central Register of Controlled Trials, the CAB Abstract Archiveを検索し、シンバイオティクスとアトピー性皮膚炎について検証した文献を抽出した(言語による制限は設けていない)。
抽出された257文献のうち、シンバイオティクスを経口投与し、かつアトピー性皮膚炎の重症度評価が行われており、かつ二重盲検ランダム化試験という条件で8文献に絞った。
8文献のうち6文献は治療に関するもので、2文献は予防に関するものであった。治療に関する文献においてはSCORAD index(Severity Scoring of Atopic Dermatitis)の変化によって評価を行い、予防に関する文献に関しては相対危険度で評価を行った。
(SCORAD index:アトピー性皮膚炎の重症度を、皮膚炎の範囲や強さ、自覚症状で点数化したもの。最高点数は103点で、点数が高いほど重症)
治療に関する6文献には、トータルで369人の小児がエントリーされていた(年齢:0ヶ月〜14歳)。予防に関する2文献は、トータルで1320人がエントリーされていたが、ひとつは出生〜6ヶ月まで、もうひとつは満期産にて出生した生後3日以内の新生児を対象としていた。
【結果】
1) 治療に関する文献での結果(6研究, N=369)
・治療期間は8〜12週間
・投与後8週間目において、シンバイオティクス投与群においては、SCORAD indexの加重平均は対照群と比較して有意に低かった(加重平均の差, -6.56; 95%CI, -11.43~-1.68; P=0.008)が、各研究の異質性はI2=77.1%と高値だった。
・3つの研究では、プロバイオティクス成分に単一株を用い(N=178)、他の3つの研究では複数株を用いていたが(N=166)、複数株を用いた場合のみでSCORAD indexの改善が認められた(加重平均の差;-7.32, 95%CI, -13.98~-0.66; P=0.03)。
・1歳以上の小児ではSCORAD indexの改善がみられたが(加重平均の差;-7.37, 95%CI, -14.66~-0.07; P=0.048)、一歳未満では有意な改善は認められなかった。
2)予防に関する文献での結果(2研究, N=1320)
対照群の、プラセボに対するアトピー性皮膚炎の相対危険度は0.44(95%CI, 0.11~0.83; P=0.26)、異質性は中等度(I2=56.7%)であった(個々の文献では、いずれもオッズ比の有意差がみられている)。
【まとめ】
アトピー性皮膚炎の治療に関して、1歳以上の小児に複数株のプロバイオティクスを含むシンバイオティクスを投与した場合、治療効果が期待される。
有効である可能性が示唆されたがさらなるデータ蓄積が必要
今回のメタアナリシスで、シンバイオティクスがアトピー性皮膚炎の治療に有効である可能性が示唆されました。
ただし、対象となった研究の数は比較的少なく、かつ異質性も高く、特に予防に関しては異質な2研究のみが対象となっており、今後もさらなるデータの積み重ねが必要であると思われます。
腸内細菌のバランスを整えることで、アトピー性皮膚炎に苦しむ子どもたちが少しでも減ることを願ってやみません。
参考文献
- Björkstén B, Sepp E, Julge K, et al. “Allergy development and the intestinal microflora during the first year of life.” (2001) J Allergy Clin Immunol. 108(4):516-20.
- Murray CS, Tannock GW, Simon MA, et al. “Fecal microbiota in sensitized wheezy and non-sensitized non-wheezy children: a nested case-control study.” (2005) Clin Exp Allergy. 35(6):741-5.
- Pelucchi C, Chatenoud L, Turati F, et al.
“Probiotics supplementation during pregnancy or infancy for the prevention of atopic dermatitis: a meta-analysis.” (2012) Epidemiology. 23(3):402-14. - Dang D, Zhou W, Lun ZJ, et al. “Meta-analysis of probiotics and/or prebiotics for the prevention of eczema.” (2013) J Int Med Res. 41(5):1426-36.
- Kim SO, Ah YM, Yu YM, et al. “Effects of probiotics for the treatment of atopic dermatitis: a meta-analysis of randomized controlled trials.” (2014) Ann Allergy Asthma Immunol. 113(2):217-26.
- Osborn DA, Sinn JK. “Prebiotics in infants for prevention of allergy.” (2013) Cochrane Database Syst Rev. (3):CD006474.
- Gibson GR, Roberfroid MB. “Dietary modulation of the human colonic microbiota: introducing the concept of prebiotics. “ (1995) J Nutr 125(6): 1401-1412.