2017年11月15日

腸内細菌叢にも24時間リズムがある、時差ボケは肥満につながるかも

2017年のノーベル生理学医学賞は「概日リズムをつかさどる分子メカニズムの解明」に貢献した米ブランダイス大学のホール博士(Jeffrey C. Hall)とロスバシュ博士(Michael Rosbash)、ロックフェラー大学のヤング博士(Michael W. Young)に授与されることになりました。

今回は、腸内細菌叢もまた概日リズムをもち、その乱れが宿主のメタボリック症候群にまでつながってしまうという報告をご紹介します1)

概日リズムの乱れはさまざまな病気につながる

体内時計は、地球の自転に伴う環境の変化に適応するために、植物から人にいたるまで、幅広い生物が獲得したシステムです。ほ乳類の概日リズムは、複数の時計遺伝子(ClockBmal1PerCryなど)により制御されています。

しかし、多くの生物の概日リズム周期は正確に24時間ではありません。そのままでは地球の自転、つまり昼夜とのずれが生じてしまうため、外からの光刺激を利用した調節機能が備わっています。

現在社会では、交代制勤務のシフトワーカーや頻繁に海外出張するビジネスマンが増えていますが、彼らの概日リズムが乱れてしまうことで、肥満や糖尿病、うつ病など幅広い病気につながることが危険視されています。

マウスの腸内細菌叢は日内変動する

多くの研究室で飼育されているマウスは、通常、エサと水は24時間自由に摂取できるようになっています。また、部屋の電気は12時間おきに点灯(昼)と消灯(夜)がくり返されます。なお、マウスは夜行性なので、夜に動き回ったり食事をとったりします。

今回の研究ではまず、マウスの腸内細菌叢が1日のうちに変動するかを調べるため、6時間おきに糞便を採取して解析しました。

その結果、Clostridiales(クロストリジウム)属、Lactobacillales(ラクトバシルス)属、Bacteroidales(バクテロイデス)属で日内変動をしていることがわかりました。さらに細菌叢の機能を詳しく調べると、ヌクレオチド代謝やアミノ酸代謝に関わる遺伝子が日内変動をしていました。

つまり、マウスの腸内では、菌種のみならず菌叢の機能まで、1日の中で変動していました。

時計遺伝子がないマウスでは腸内細菌叢も日内変動しない

次に、どのように菌叢の日内変動がおこるかを調べるため、時計遺伝子の1つであるPer遺伝子を欠損させたマウスを用意しました。

Per欠損マウスの糞便を同じように調べると、通常マウスでみられた菌種や機能の日内変動の多くは、Per欠損マウスではみられないことがわかりました。また、通常マウスとPer欠損マウスの菌叢を比較したところ、異なる分布をしていました。

つまり、宿主の時計遺伝子が、菌叢の日内変動にまで影響を及ぼすと考えられました。

食事の摂取時間が菌叢の日内変動を支配する

宿主の時計遺伝子は、食事摂取をはじめとする多くの生理的な機能のリズムをコントロールしていることが知られています。逆に食事の摂取時間は、末梢時計を同期させるのに中心的な役割を果たしています。

通常マウスは夜に多く食餌をとるのですが、食餌の摂取時間が菌叢の日内変動に与える影響を調べるために、昼だけ食べる群(“light” fed)、もしくは夜だけ食べる群(“dark” fed)を用意し、時間を限定してエサを与える実験をしました。

その結果、両群とも菌叢は変動しましたが、その動態は逆を示していました。例えばBacteroides acidifaciensは、“light” fedマウスでは昼に増え夜に減るのに対し、“dark” fedマウスでは夜に増え昼に減っていました。またLactobacillus reuteriは“light” fedマウスでは昼に減り夜に増えるのに対し、“dark” fedマウスでは昼に増え夜に減っていました。

一方、概日リズムがないPer欠損マウスは、昼夜問わず食餌をとります。同じ実験をPer欠損マウスで行なったところ、消失していた菌叢の日内変動が回復することがわかりました。

つまり、食事の摂取時間が菌叢の日内変動をコントロールしていたということです。

時差ボケのマウスでは腸内細菌叢が変化する

腸内細菌叢の日内変動が、身体にどのような影響を与えるかを調べるために、マウスで時差ボケを再現したモデルをつくりました。

マウスの飼育では通常、午前6時点灯、午後6時に消灯のスケジュールです。これを、午前10時に消灯、午後10時に点灯のスケジュールに変えると、8時間の時差が生じます。これを3日おきに切り替えつづけて実験を行いました。

その結果、時差ボケのマウスでは、昼夜での食餌量の差と、菌叢の日内変動が見られなくなりました。また、時差マウスでは、「やせ」との関連が知られているChristensenellaceae科が減り、大腸がんとの関連が知られているFusobacteria属が増えていました。

さらに、時差マウスに高脂肪食を与えると、通常マウスに比べて体重が増え、血糖値も増加しました。

つまり、時差ボケによって乱れた腸内細菌叢は、日内変動を失うとともに、メタボリック症候群の原因になり得ることがわかりました。

時差ボケのヒトの腸内細菌叢は肥満を誘発する

最後にヒトの時差ボケでも調査しています。アメリカからイスラエルまで8時間を超えるフライトをした2人から、i)飛行1日前、ii)飛行1日後、iii)飛行2週間後の3回にわたり糞便を集めました。

興味深いことに2人とも、飛行1日後の菌叢で、肥満との関連が知られているファーミキューテス門が増えていましたが、飛行2週間後には飛行前のレベルにまで戻っていました。

また、これらの糞便を無菌マウスに定着させると、飛行前、飛行2週間後のマウスに比べて、飛行1日後のマウスでは大幅に体重が増加することがわかりました。

腸内細菌叢の日内変動喪失はメタボリック症候群発症につながるかも

今回の研究では、腸内細菌叢が食事摂取の時間により日内変動をしていること、時差ボケによる菌叢の乱れや日内変動の喪失がメタボリック症候群の発症につながる可能性があることがわかりました。

また、検体を採取して腸内細菌叢の解析を行うときには、食事時間や内容に加えて、「採取時間」も重要な因子のひとつだと考えられます。

参考文献

  1. Thaiss CA, et al. Transkingdom control of microbiota diurnal oscillations promote metabolic homeostasis. Cell. 2014; 159(3): 514-29.