2018年5月22日

2型糖尿病の病態にも腸内細菌叢の影あり

 執筆:野本 昌代

近年、さまざまな疾患と腸内細菌叢に関わりがあることが多数報告されています。疾患の原因や病態の一貫としてその役割が示されたり、改善の足がかりになる可能性が示唆されたりするなど、その関与はさまざまです。その数や詳細に関する科学的知見は増える一方で、注目を集めていることが伺えます。

その中でも今回は、2型糖尿病と腸内細菌叢の関連についての研究をご紹介します。

2型糖尿病を取り巻く現状

糖尿病、その中でも2型糖尿病はインスリン抵抗性に代表される、インスリンの作用の減弱化を中心とした病態を示します。

通常、インスリンの作用を受けると、血糖値を調整する肝臓などの器官により血糖値は時々刻々と調整されます。しかし、インスリン抵抗性を示している2型糖尿病患者では、それは期待できません。そのため、日常の食事や生活習慣をコントロールすることで、血糖値をできるだけ好ましい範囲内に抑える努力が絶えず要求されます。

現在、血糖値を管理するためのさまざまな薬剤やサプリメントなどが使用されており、より効果的な代替物質の開発も引き続き行われています。その中で、今回紹介する研究により、高繊維食とプロバイオティクスの投与が腸内細菌叢のはたらきを助け、血糖値の安定に寄与することが明らかになりました。

食物繊維から作り出される短鎖脂肪酸

消化管内では、さまざまな腸内細菌叢のはたらきによって、食物繊維などの炭水化物が分解され、短鎖脂肪酸(SCFA)が生成されます。SCFAは、腸管の上皮細胞に栄養を供給し、炎症の軽減、食欲のコントロールを助けています。SCFAの欠乏は、2型糖尿病を始め、他の疾患にも影響を与えているということがこれまでに報告されています。

多くの臨床試験が、食物繊維の増量摂取が2型糖尿病の緩和に役立つことを示していますが、その詳細な機序については実は未だ明らかにされていません。そのため、治療として用いた場合に、その効果にはばらつきがあるのが現状です。

高繊維食は血糖値を改善する

今回、中国で行われた無作為化試験は、2型糖尿病患者に対して12週間にわたっておこなわれました。血糖値コントロールのためアミラーゼ抑制剤であるアカルボースの投薬と食事指導などの標準治療を行いながら、高繊維食などの腸内細菌叢の活動を促進することによる効果の有無、それを担う細菌について検討されました。

被験者は2群に分けられ、対照群16人は通常の食事をとりました。高繊維群27人は、エネルギーや主要栄養素の面では対照群と変わらないものの、全粒や繊維が豊富な食材(薬効があると考えられている中国の伝統的な食材)を含む高繊維食と、SCFA産生腸内細菌の成長を促進するプレバイオティクスを継続的に摂取しました。

その結果、対照群に比べて、高繊維・プレバイオティクス摂取の高繊維群で、期間中平均血糖値が有意に低い結果となりました。絶食時血糖値の低下もより早く、体重もより減少しました。

代表的なマーカーの変化としては、繊維により促進されるSCFA産生細菌が豊富かつ多様に存在している条件下で、直近1〜2ヶ月の血糖値の平均を反映する糖と結合したヘモグロビンを示すHbA1cレベルが、より改善されました。この結果は、部分的にはインスリンの分泌を促進するグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)の増加に起因すると考えられました。

SCFA産生菌が糖尿病の病態改善と相関した

両群の患者から0、28、56、84日目に糞便を採取し、次世代シークエンスによる細菌のメタゲノム解析をおこないました。その結果、特定のSCFA産生菌株群が高繊維食で増強され、それ以外の潜在的SCFA産生細菌は消失または変わりませんでした。

SCFA産生菌は141菌株が同定され、そのうち15菌株がより多くの繊維を消費する効果的な細菌群であるということが明らかになりました。これら15種の菌は、アセチル化やブチル化能力に関与する遺伝子を有していました。これらの菌株の属する系統には、ラクノスピラ属(Lachnospira)、ビフィドバクテリウム(ビフィズス菌)属(Bifidobacterium)やクロストリジウム目(Clostridiales)などがあり、特に高繊維群でHbA1cなどの糖尿病の病態を示すパラメーターの改善と相関を示しました。

高繊維食により繊維成分が増強されたことで、これらの種が消化管内で優勢となり、酪酸や酢酸塩などのSCFAを増加させる結果となりました。これらのSCFAは、消化管内環境を軽度に酸性化するはたらきがあります。

また、高繊維群では、特に酪酸塩を産生する5種の菌の増加により、酪酸塩が有意に増加しました。酸性化し、酪酸塩濃度が高く、競争的排除効果のある腸内環境が形成されることにより、代謝上有害なインドールや重硫酸塩などの有害な化合物を産生する細菌群は減少しました。

このような腸内環境の変化により、酢酸塩や酪酸塩のはたらきによりGLP-1産生が起こり、インスリンの産生量を増加させることで、糖の代謝恒常性を改善するなど、健康状態の改善が見込めると考えられています。

腸内細菌叢が2型糖尿病の病態の一端に関与する

糖尿病は一度罹患すると根治することのない疾患です。食事などの生活習慣にさまざまな制約が加わり、悪化しないようコントロールし続けるという、生涯にわたる付き合いを余儀なくされます。

その症状改善やコントロールを目指し、さまざまなな療法や薬剤の開発、病態の詳細な機序解明などを目指して日夜研究が続けられています。

今回の研究から、腸内細菌叢も病態の一端に関与しており、症状を改善する一助になる可能性が示されました。

参考文献

Fiber-Fermenting Bacteria Improve Health of Type 2 Diabetes Patients | Rutgers Today <2018.04.16アクセス>

ZHAO, Liping, et al. Gut bacteria selectively promoted by dietary fibers alleviate type 2 diabetes. Science, 2018, 359.6380: 1151-1156.

糖尿病 医療従事者向け | 医療関係者の方へ | 国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス <2018.04.16アクセス>