2018年2月6日

ウシ第一胃にいるのは複雑な関係の細菌たち

ウシの第一胃に含まれる微生物の数は膨大で、まるで宇宙です。今回は、その細菌たちの関係についてご紹介したいと思います。人間の社会はとても複雑ですが、胃の中の細菌たちの関係も複雑に相互作用しています。

セルロースを分解して短鎖脂肪酸を産生する

植物を分解するためには、まず、細胞壁を構成するセルロースを分解するセルラーゼが必要です。これがなければ、ウシは草を食べても消化することができません。

第一胃にはセルラーゼを分泌する細菌がいます。セルロースが消化されるとグルコースが生成され、様々な細菌がこのグルコースを利用して短鎖脂肪酸を生成します。この短鎖脂肪酸をウシは利用します。

また、第一胃の中は酸素が非常に少ないため、細菌はグルコースを嫌気的に分解します。好気的分解に比べて生み出すエネルギー量が多くないため、ホモ乳酸発酵と呼ばれる経路も使い、分解できなかった分を再利用してエネルギーを産生しています。

その他にも様々な細菌が、タンパクや糖といった植物の様々な構成成分を分解する加水分解酵素などを生成し、ウシの消化を助けています。

第一胃の中の重要な細菌

第一胃に生息する細菌の増殖には、二酸化炭素、窒素、ナトリウム、揮発性脂肪酸が必要です。一種類の栄養素を使う細菌もいれば、複数を使う細菌もいます。具体的に見てみましょう。

フィブロバクター門

バクテロイデーテス門に近いフィブロバクター門のFibrobacter succinogenesは、第一胃で優占的なセルロース分解性細菌です。グルコースを発酵に用いて、短鎖脂肪酸である酢酸やコハク酸を産生します。

ファーミキューテス門

クロストリジウム

クロストリジウム目には、植物を構成する様々な物質を消化する重要な菌が多くいます。

中でもRuminococcus flavifaciensは、セルラーゼとヘミセルラーゼの活性が高く、植物細胞壁の破壊に際して最も活発な細菌です。この反応によって、水素、酢酸、コハク酸が排出されます。水素はメタン産生菌に使用され、酢酸は宿主の酸化可能な基質として、エネルギーとなるATPを産生する代謝過程で使用されます。コハク酸はプロピオン酸産生の過程の中間物質であり、またプロピオン酸産生を行う生物の増殖基質(つまり細菌の栄養)としても使われます。

Butyrivibrio fibrisolvensもセルロース分解性で、第一胃で一般的な細菌です。セルロースやキシランだけでなく、タンパクや糖、脂肪までも分解できます。グルコースやその他の基質を発酵に用いて、酢酸と酪酸を産生します。

Selenomonas ruminantiumはセルロース分解性ではなく、グルコースを発酵し、プロピオン酸を産生する重要種です。穀物を多く摂取すると増えます。

Veillonella parvulaは、乳酸と、他の細菌が産生したコハク酸を増殖基質として利用し、酢酸とプロピオン酸を産生します。この結果、細胞膜内外のナトリウムイオン勾配による化学電位差が消失し、化学浸透圧メカニズムによりさらにATPを産生することができます。

・セレノモナス目

Megasphaera elsdeniiは、若い反芻動物の第一胃で優占している種で、グルコースを発酵してプロピオン酸を産生します。プロピオン酸は、宿主であるウシによって糖新生に利用されます。

ラクトバシルス

Lactobacillus ruminisは、若い反芻動物の第二胃で優占している種ですが、グルコースを発酵し、乳酸を産生するという意味で重要です

Streptococcus bovisも重要な発酵細菌で、同様にグルコースから乳酸を産生します。通常、乳酸は、宿主のウシの糖新生に利用されるため重要である他、プロピオン酸産生を行う細菌の増殖基質として使用されます(前述したVeillonella parvulaなど)。

しかし、これらラクトバシルス目の2種の細菌は、宿主動物が容易に発酵できる炭水化物を過剰に採餌した場合に、第一胃の環境を著しく酸性にします。これはウシの胃で、乳酸アシドーシスと呼ばれる深刻な疾患を引き起こします。

プロテオバクテリア門

プロテオバクテリア門は、数多くの細菌の中でも最も多く、多様な細菌の属するグループです。細菌たちの形も、生きる環境も様々です。単独で生きていけるものもあれば、寄生しなければ生きられないものもあり、ウシの第一胃にいる種のように、寄生相手も自分も利益のある相利共生関係の細菌もいます。

複雑な関係の中でバランスがとられている

その他、植物の持つ毒性成分の解毒などの役割も指摘されています。様々な重要な細菌について分かってきていますが、未だそのはたらきの詳細が謎である種も少なくありません。

また、個体間で、細菌叢の類似性も確認されています。解析方法にもよりますが、数にして50〜80%以上、属にして30以上の細菌が、全ての個体で共通していたという研究報告もあります。

ある細菌の作り出した排出物が他の細菌の糧になることで、複雑な関係の中でうまくバランスがとられ、発酵が妨げられないようになっています。食物の咀嚼を進め、発酵してエネルギーとなる揮発性脂肪酸を作り、エネルギー産生しているのが第一胃なのです。

参考文献