薬の作用に影響を与える腸内細菌叢——がんとパーキンソン病の場合
口から飲む薬の成分は、主に小腸や大腸で吸収されます。最近、腸内細菌叢が薬の成分に影響を与え、薬の効果まで変わることを示唆する研究成果がいくつか報告されています。今回は、がんとパーキンソン病について過去の記事と最新の報告を紹介します。
新しいがんの治療法「免疫チェックポイント阻害薬」は腸内細菌叢の影響を受けるようだ
2018年のノーベル生理学・医学賞の受賞テーマとなった免疫チェックポイント阻害療法。しかし、全員が奏功するわけではなく、作用機序の異なる免疫チェックポイント阻害薬の開発だけでなく、腸内細菌叢に注目した研究が続けられています。
パーキンソン病患者の腸内細菌叢は短鎖脂肪酸を多く産生して病態を悪化させる
酪酸菌などが作る短鎖脂肪酸は肥満抑制効果があるといわれていますが、どうやらパーキンソン病については病態を悪化させる要因になりそうです。この記事の最後には「脳の神経細胞を有害物質から守るバリア機能である『血液脳関門』や、神経伝達物質であるドパミンに、腸内細菌が影響を与えたのかどうかも気になるところ」とありますが、これに関する新しい報告がありました。
パーキンソン病治療薬を分解する腸内細菌
神経変性疾患の一つであるパーキンソン病では、神経伝達物質であるドパミン(ドーパミンとも言う)の産生量が減少することで発症します。根本的な治療法は未だにありませんが、症状を和らげる薬としてドパミンの前駆物質であるL-ドパがあります。前駆物質を服用する理由は、ドパミンは血液脳関門を通れないためで、脳内でL-ドパが芳香族アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)の作用を受けることでドパミンが作られます。
ところがL-ドパは、消化管でもAADCの作用によりドパミンに変換されます。ドパミンの血中濃度の上昇は副作用の原因にもなります。
そこでAADC阻害薬のカルビドパを同時に服薬しますが、それでも脳に届くL-ドパは約44%と推定されています。患者によって効果と副作用に差があり、ホストの代謝のみでは説明ができない課題がありました。
米ハーバード大のBalskusらの研究チームは、腸内細菌の一つであるEnterococcus faecalisが、L-ドパをドパミンに変換するチロシンデカルボキシラーゼ(TyrDC)を発見。さらにドパミンを無害なm-チラミンに変換するドパミンデカルボキシラーゼ(Dadh)をEggerthella lentaの中から見つけたことで、腸内細菌叢によるL-ドパの代謝経路が明らかになりました。ただしDadhはやや複雑で、コードする塩基配列の一塩基多型(SNP)で活性が変わるとのこと。これらの現象は、パーキンソン病患者の便に含まれる腸内細菌叢で確認できました。
これら腸内細菌叢によるL-ドパの代謝は、AADC阻害薬のカルビドパでは阻害できず、薬剤スクリーニングで候補に挙がった (S)-α-フルオロエチルチロシン(AFMT)で阻害できることを確認。最後にE. faecalisを有するマウスにおいて、L-ドパ、カルビドパの同時投与よりも、AFMTを上乗せすることで血中L-ドパの血中濃度を高めることができました。
腸内細菌叢の影響も考慮した薬の開発へ
これまで薬の作用の個人差は、病態の差や、患者がもつ遺伝子の個人差などに注目が集まっていましたが、今後は腸内細菌叢にも注目が集まるかもしれません。
Mykinsoラボは、医療機関で受ける腸内フローラ検査Mykinso Proを提供する株式会社サイキンソーが運営しています。