大腸がん既往歴のある人の腸内細菌代謝を変える米ぬか
食生活は、大腸がんのリスクファクターになり得ることが知られており、遺伝性のないケースでは、食生活による要因が95%占めるといわれています1。
日本でも、食生活の欧米化に伴い、大腸がんの罹患率が上昇してきました。穀物および食物繊維の少ない食事が大腸がんの罹患率を上げることが、これまでの研究からわかっています2。また、マメ科および穀類の摂取が罹患率を下げることも報告されています3。
大腸がん発症には腸内細菌がかかわる
近年、大腸がんの発症には腸内細菌がかかわっていることが明らかになってきました4。腸内細菌は、腸内の炎症のメカニズムを通して、大腸がんの発症率を上げる方向にも、下げる方向にもはたらきます。
これまでの研究では、穀類などの摂取が腸内細菌叢のバランス(Firmicutes:Bacteroides ratio、FB比など)に変化をもたらすことが報告されています5。加熱した米ぬかを含むサプリメントが、ビフィドバクテリウム(ビフィズス菌)属(Bifidobacterium)やルミノコッカス属(Ruminococcus)を増やし、糞便中の分枝鎖脂肪酸の含有量を増やすことも示唆されています6。
一方で、豆類に関しては、腸内細菌叢の変化とのかかわりがはっきりとは示されていません。
そこで、大腸がんと、穀類、豆類摂取による腸内細菌叢の変化について調べた研究をご紹介します。
Sheflin AM et al. Dietary Supplementation with Rice Bran or Navy Bean Alters Gut Bacterial Metabolism in Colorectal Cancer Survivors
Mol Nutr Food Res. 61(1),2017
試験のデザインと結果
【対象と方法】
大腸がんの既往のある、現在は健康な37症例を対象とした。食事の介入研究を終了したのは29例。
期間は4週間、ランダム化割り付け、single-blindedで行った。
3群にランダムに分け、30gの米ぬか(加熱して安定化させた粉末)を含む食事を摂取する群、35gの白インゲン豆の粉末を含む食事を摂取する群、コントロール群に分けた。
対象者より、便のサンプルをDay 0, 14, 28に採取し、細菌の16S rRNAのV3-V5領域をパイロシーケンス法やライブラリー作成により解析した。細菌の数や多様性の解析も行った。短鎖脂肪酸の含有量も計測した。
【結果】
米ぬか摂取群:便サンプルに含まれる細菌の量は、day14では変化がなかったが、day18では著明に増えていた。
細菌叢の構成に有意な変化が見られた。Day14では、細菌のはたらきのうち、不飽和脂肪酸合成が有意に低下し、フェニルプロパノイド合成、グリカンの分解、スターチやスクロース代謝が高まっており、短鎖脂肪酸の便中含有量が増えた。
また、バクテロイデーテス門(Bacteroides)が増え、ファーミキューテス門(Firmicutes)が減少。FB比は、Day14で有意に低下した。
白インゲン豆摂取群:細菌の量は、Day14で変化はなく、Day28では微増した。
細菌叢の構成に有意な変化は見られなかった。細菌の合成、代謝機能に関しても有意な変化は見られなかった。短鎖脂肪酸の便中含有量には変化がなかった。
コントロール群:細菌の量、多様性ともに変化はなかった。
【結論】
米ぬか摂取と、腸内細菌叢の変化とは関わりがあることが示唆されたが、変化が継続するかどうかは、さらに長期フォローアップする必要がある。また、エントリー人数やランダム化においてリミテーションがあり、さらなる研究が必要である。
食物繊維が多くても食品によって効果は変わる?
今回は、大腸がん既往のある人の腸内細菌と、食物摂取との関係に関する論文を紹介しました。
穀類も豆類も、食物繊維を多く含む食品といわれていますが、腸内細菌に対する作用に違いがあるということが示唆されました。
大腸がん予防のためにも、食品と腸内細菌のさらなる知見が今後積み上がることが期待されます。
参考文献
- Gingras D, Béliveau R. “Colorectal cancer prevention through dietary and lifestyle modifications.”Cancer Microenviron. 4(2):133-9.,2011
- Egeberg R et al. “Intake of wholegrain products and risk of colorectal cancers in the Diet, Cancer and Health cohort study.” Br J Cancer. 24;103(5):730-4. ,2010
- Lanza E et al. “High dry bean intake and reduced risk of advanced colorectal adenoma recurrence among participants in the polyp prevention trial.” J Nutr. 136(7):1896-903.,2006
- Sheflin AM et al. “Cancer-promoting effects of microbial dysbiosis.” Curr Oncol Rep. 16(10):406.,2014
- Martínez I et al. “Gut microbiome composition is linked to whole grain-induced immunological improvements.” ISME J. 7(2):269-80.,2013
- Sheflin AM et al. “Pilot Dietary Intervention with Heat-Stabilized Rice Bran Modulates Stool Microbiota and Metabolites in Healthy Adults” Nutrients 7(2):1282-1300, 2015