2018年3月12日

ニワトリの消化器官、そして腸内細菌叢はヒトと似ている

ニワトリは身近な動物です。世界中に240億羽以上もおり、他の鳥類全ての個体数を凌ぐ圧倒的な数です。卵に肉にと、日々さまざまな面でお世話になっている、大変身近な家禽です。もともとは野生種(gallus gallus)ですが、そこから品種改良された、お馴染みのニワトリ(gallus gallus domesticus)についてご紹介します。

細菌叢研究のモデル生物でもあるニワトリ

ニワトリは近年、腸内細菌叢の研究でモデル生物として用いられています。

「ニワトリは鳥類なので哺乳類の我々とは縁遠そう」と思われるかもしれませんが、そうでもありません。ニワトリの食性は雑食です。穀物を主食として、その他にも植物や昆虫、その他の無脊椎動物、たまに小型の脊椎動物(爬虫類や哺乳類など)と、さまざまなものを食べます。我々ヒトも雑食であり、主食は穀物です。もちろん、恒温動物という共通点もあります。

ニワトリの消化管と腸内細菌叢はヒトに近い

消化管に着目すると、さらなる類似性が見られます。ニワトリは、比較的短い消化管で、消化時間も短く食物が通過していきます。しかし、使われる消化酵素や消化器の構造は、ヒトと同じや類似のものが多く見られます。

消化の入り口である口(嘴)の中には、ヒトのような歯はありません。しかし、消化酵素アミラーゼを含む唾液が分泌され、食物と混ぜ合わされるという点では同じです。

食道(そのう)

食道が変形した「そのう」と呼ばれる膨らみのあるところでは、食物を一時的に貯めておくことができます。この袋は消化・分解にはほとんど関与しませんが、細菌叢があります。ファーミキューテス門ラクトバシルス属(Lactobacillus)を優勢として、アクチノバクテリア門ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、プロテオバクテリア門エンテロバクター属(Enterobacter)などで構成されています。その数は滞留食物中に108〜109 cells/gです。

次に、前胃(腺胃または真胃)と呼ばれる、腺分泌を行って消化の主要な役割を担う胃があります。ヒトの胃と同様に、塩酸や、ペプシンなどの消化酵素が分泌され、食物を分解します。ここは強酸性なので、微生物はいません。

砂嚢(砂肝)

胃のすぐ後ろにつながるのが砂嚢です。ここでは、2種類の強靭な筋肉がはたらき、さらに小石や飼料に含まれる粒状のものを取り込んで、食物を機械的にすりつぶします。砂肝、という名前に聞き覚えがある人も少なくないでしょう。言うなれば、ここで歯の代わりに咀嚼を行っているのです。ここでの滞留時間の長さが、次の小腸での食物の消化・吸収のしやすさに影響します。

砂嚢では、ファーミキューテス門ラクトバシルス属とエンテロコッカス属(Enterococcus)が占めていますが、数は107〜108 cells/gと、そのうや腸と比べてやや少なめです。

小腸

小腸は、残りの食物を消化する十二指腸と、栄養素を吸収する空腸、回腸からなる下部小腸からなります。十二指腸では、膵臓からの重炭酸塩と、肝臓から胆嚢を経由して胆汁が分泌されます。タンパク質や脂肪を消化し、ビタミンAなどの脂溶性ビタミンの吸収を、主に下部小腸で行います。これは、ヒトの消化によく似ています。

小腸では、ファーミキューテス門ラクトバシルス属、クロストリジウム属(Clostridium)、ルミノコッカス属、エンテロコッカス属、そしてプロテオバクテリア門エシェリキア属が全体で見られます。空腸回腸のみで、クロストリジウム属に近いCandidatus Arthromitusが見られます。全体の密度は、108〜109 cells/gです。

盲腸

2本の盲腸を持ち、食物残渣の粒度の荒いものをここで発酵させています。この発酵により、脂肪酸やビタミンB群が産生されます。しかし、この直後は水の吸収器官である結腸であり、その後排出へと向かうため、それほど利用率は高くないと考えられているようです。

ここではファーミキューテス門が44〜56%を占め、ルミノコッカス属やクロストリジウム属を含む多くの種が主要構成菌となっています。次に多いのは、バクテロイデーテス門バクテロイデス属(Bacteroides)で、23〜46%を占めています。続いて、プロテオバクテリア門エシェリキア属が1〜16%、古細菌の中でもメタン菌の多くの種が0.81%を占めます。真菌のカンジダもいます。非常に多様な構成である盲腸の微生物叢の密度は1010〜1011 cells/gで、最も高い結果となっています。

大腸(結腸)

最後の結腸で細菌叢を構成する主要菌類は、ファーミキューテス門ラクトバシルス属、プロテオバクテリア門エシェリキア属などです。

いたるところに細菌叢はいる

強酸性の腺胃を除く、全ての消化器それぞれに細菌叢があります。消化を行っていないそのうや、破砕が役割の砂嚢にも細菌叢があります。

全体を見渡すと、そのうから盲腸を通して、常にファーミキューテス門の細菌が優勢な種であるというヒトとの共通点も見られます。しかし、細菌の密度も、細菌叢を構成する主要菌群もそれぞれに違っています。

特に最も長い食物滞留時間をかけ、発酵を行っている盲腸では、微生物叢の多様性や密度が最も高いという結果が、遺伝子的な解析からも報告されています。

哺乳類であるヒトとは縁の遠そうに思えた鳥類のニワトリですが、同じように細菌叢を消化管内の隅々で活用し、共生しているのです。

参考文献