2017年6月20日

【ブックレビュー】知られざる腸の魅力を熱く語る『おしゃべりな腸』

腸のメカニズムをわかりやすく解説し、腸内細菌への理解を深め、さらなる興味をかきたててくれるジュリア・エンダース著『おしゃべりな腸』(サンマーク出版)をレビューします。身体の健康はもちろん、心のありようにも関係し、他人の病気を治す可能性をも秘めた腸内細菌の世界へようこそ!

腸のメカニズムを、誰にでもわかるように

著者のジュリア・エンダースは、ドイツで医学を学んだサイエンス・コミュニケーションの専門家です。帝王切開で生まれたエンダースは、5歳で乳糖不耐症になり、17歳ごろには「謎の皮膚病」を患いますが、ふとしたきっかけから不調の原因が腸にあるのではないかと考えるようになります。

食生活を改善し、ときに自分の体を使った実験をおこなうことで、病気(グルテン不耐症)にうまく対処したエンダースは、医学の道に進みました。『おしゃべりな腸』では、そんなエンダースが水先案内人となり、腸と腸内フローラ(腸内細菌叢)を探索する旅へといざなってくれます。

本書の前半では、口から直腸に至るまでの消化器の働きがわかりやすく説明され、さらに嘔吐やげっぷ、便秘などが起きるメカニズムや簡単な対処法などが紹介されています。

たとえば、盲腸(虫垂)はどんな器官か? 取っても平気なのか? 小腸はどんなふうに栄養を吸収し、どこに送るのか? など。

まるで著者と直接言葉を交わしているような明快な文章、親しみやすくちょっととぼけたイラストのおかげで、かなり突っこんだ内容もするっと「消化」できることうけあいです。

脳と腸の密接な関係

そして後半では、腸の働きや腸内フローラにスポットが当てられます。

単なる消化器ではなく、免疫器官であり、「第二の脳」とも呼ばれる腸(大腸)。腸と脳は密接につながっていますが、なかでもよく伝えあう情報は「ストレス」のようだ、と著者はいいます。お腹の調子は気分に影響しますし、逆にあせりや不安は腸の活動や腸内フローラに影響を及ぼします。

腸内細菌のなかには、うつ病や糖尿病に関わりのある細菌もいれば、肥満に関係した「ぽっちゃり細菌」や食欲に影響を与える「食いしん坊細菌」もいます。人間が分解できない食物を分解して栄養を与えてくれる細菌もあり、欧米人は栄養素の90パーセントを自分が食べたものから、残り10パーセントを腸内細菌からもらっているのだとか。体重を増やしたくないなら、摂取カロリーだけでなく腸内細菌についても考えなくてはならないわけですね。

薬としての腸内細菌

腸内細菌はまた、病気を癒やす人間の身体の中で育つ薬草として注目されています。

プロバイオティクスは下痢の治療、免疫力強化、アレルギーの予防に効果が認められていますが、プロバイオティクスや抗生物質が効かない感染症があります。この感染症に効果を発揮したのが、健康な人の腸内細菌をわけてもらう「糞便移植」です。糞便移植は日本の大学でも研究が進められており、近い将来難病の治療に大きな進展が見られるかもしれません。

人間と共存関係にあり、体調や心のありように大きく関わっている腸内細菌。この本の結びで、著者はこう述べています。

悪い細菌に鍛えられ、いい細菌に支えられ、私たちは生きている

『おしゃべりな腸』(原題“DARM MIT CHARME:魅力ある腸”)は、その名のとおり腸について饒舌に語り、腸をもっと知りたいと思わせてくれる好著です。腸内フローラ、そして腸と心身の健康との関係に興味を持つすべての人にお奨めしたい1冊です。