2017年6月13日

ホストや腸内細菌叢の代謝産物は病原性微生物へのシグナルとしてはたらく!

カリフォルニア大学医学部デービス校細菌学・免疫学講座のA. J. Bäumler博士とテキサス大学医学部細菌学・生化学講座のV. Sperandio博士は、『nature』online版2016年7月7日号の腸内細菌叢に関するレビューで、従来のアプローチに次世代シーケンサーなどの活用を前提とした革新的な技術、具体的にはmRNAに照準を合わせたトランスクリプトーム解析、タンパク質を網羅的に取り扱うプロテオーム解析、より低分子のすべての代謝産物を対象とするメタボローム解析などを組み合わせることで、腸内細菌叢とホスト、病原微生物間の相互作用を通した腸の代謝環境が把握できるようになったことを報告している。

このプロセスで、病原性の発現や増強に、ホストと細菌群の代謝産物や各種栄養素がシグナルとして機能していることを明らかにしている。

腸内細菌叢の多様性を感知して争いを避ける

ホストの消化産物である単糖はホスト自身によって小腸で吸収されるため、結腸内の常在細菌叢および病原性微生物は炭素源として利用することはできない。そのため、腸内細菌叢の最も豊富なメンバーは、食物残渣としての食物繊維や結腸に存在する宿主グリカンを利用することができるものが中心となる。

例えば、腸内細菌叢を構成するBacteroides thetaiotaomicronは、粘液グリカンからシアル酸とフコースを結腸内腔に放出することで糖分解能力を欠く多様な細菌群を支えている。その結果、腸内細菌叢の多様性は維持され、病原性微生物のコロニー形成を抑制している。

enterohaemorrhagic Escherichia coli(EHEC 腸管出血性大腸菌O157:H7)は、シグナル伝達分子としてこのフコースを利用する。フコースを利用して代謝を調整し、結腸内腔および外粘液層におけるその病原性レパートリーの発現を調節する。このシステムは、腸管出血性大腸菌と、マウスモデルにおいて広く代用されているCitrobacter rodentium(腸粘膜肥厚症菌)に特有のもので、フコースに応答して特異的に自己リン酸化する膜結合ヒスチジンセンサーキナーゼFusKから構成されている。

FusKがフコースを感知すると、そのリン酸を転写因子であるFusRという応答調節因子に転送する。このリン酸化はFusRを活性化させ、FusRは腸管出血性大腸菌におけるフコース利用遺伝子の発現を抑制する。そして、ホスト細胞に接着するために使用する注射器様装置、Ⅲ型分泌システム(T3SS)として知られるEHECビルレンス因子をコードする遺伝子も抑制する。こうして、フコースをめぐる共生大腸菌との競争は回避され、腸管出血性大腸菌はエネルギーの不必要な消費を防ぐことになる。

このように腸管出血性大腸菌は、腸管内腔の環境変化を感知して自身の代謝および毒性を調節するのだが、その際にはフコースのような微生物によって利用可能にされたホスト由来のシグナルを使用しているのだ。

代謝の変化を感知すると感染に向けて動き出す

出血性大腸菌および腸粘膜肥厚症菌は、そのニッチである結腸上皮内層に到達するために、ムチン型糖タンパク質を切断するムチナーゼを産生する。この酵素の発現は、B. thetaiotaomicronによって生成される代謝産物によって増加する。腸管出血性大腸菌および腸粘膜肥厚症菌が定着すると、結腸内の糖の主な供給源の1つである粘液層が喪失するため、上皮近傍に栄養不足の環境が作り出され、糖質以外からグルコースを産生する糖新生が引き起こされる。その結果、コハク酸などの有機酸のレベルが上昇するため、マウスの腸の代謝は大きく変化する。さらに、糖新生の環境を示す乳酸塩やグリセリンなどのいくつかの代謝物もまた上昇する。

腸管出血性大腸菌および腸粘膜肥厚症菌は、この糖新生およびコハク酸が豊富になった環境変化を、転写制御因子Craを介して結腸上皮内層で感知すると、ホスト細胞に接着するためのT3SSの発現を活性化させる。つまり、出血性大腸菌は、B. thetaiotaomicronの代謝産物および微生物の他のメンバーを利用して、その代謝および毒性を正確にプログラムしているのだ。

ほかの病原性微生物もまた、生成されたコハク酸の存在下でそれらの遺伝子発現を調整することができる。Clostridium difficile(ディフィシル菌)は、コハク酸塩を酪酸塩に変換する経路を誘導し、増殖に利用している。

短鎖脂肪酸もまた重要なシグナル

微生物によって生産される短鎖脂肪酸は、腸内細菌叢と病原性微生物との相互作用の重要な決定因子である。短鎖脂肪酸の豊富さと組成は腸の各区画で異なり、これらの違いを感知する能力はニッチ認識において病原性微生物を支援している可能性がある。

腸内で最も豊富な短鎖脂肪酸は、酢酸、プロピオン酸、酪酸である。回腸に定着するネズミチフス菌にとって好適な環境条件は、30mMの酢酸濃度である。この酢酸濃度は、ホストへ細菌が侵入するときに関与するネズミチフス菌病原性島1(SPI-1)でコードされたT3SS(T3SS-1)の発現を増強する。

逆に結腸の典型的な濃度である70mMのプロピオン酸および20mMの酪酸は、T3SS-1の発現を抑制する。このようにプロピオン酸と酪酸は、様々なレベルでT3SS-1調節カスケードに影響を与えていると考えられるが、その詳細なメカニズムはまだ解明されていない。

腸管出血性大腸菌では、結腸内での酪酸の通常レベル20mMへの暴露は、転写調節因子LRPの転写後活性化を介してT3SSの発現を増加させるが、小腸で見出される酢酸とプロピオン酸の濃度への曝露では、腸管出血性大腸菌の毒性には影響を与えなかった。

また、ホストの食餌は、腸内細菌叢構成および腸管内腔における短鎖脂肪酸の濃度に大きな影響を与える。

高繊維の食餌を与えられた動物の腸内では、酪酸菌の働きによって多量の酪酸が生成されるが、腸内細菌叢のはたらきによって酪酸塩へと形を変える。その結果、出血性大腸菌の産生する志賀毒素の受容体であるグロボトリオシルセラミドの発現を強化する。つまり、高繊維の食餌を与えられた動物では、低繊維の食餌を与えられた動物と比較すると志賀毒素に対する感受性が高く、また、より重篤な症状につながっている。

逆に、微生物由来の酢酸レベルの増加は、毒素によって引き起こされる疾患から動物を保護している。Bifidobacterium属細菌(ビフィズス菌)の特定の種は、腸内での酢酸濃度を高めることで腸上皮のバリア機能を改善し、志賀毒素が血流に到達するのを防ぐのに役立っている。

未利用化合物を利用して競争を回避する病原性微生物の戦略

ネズミチフス菌や腸管出血性大腸菌、Listeria monocytogenes(リステリア菌)などの高病原性のEnterobacteriaceae科細菌は、哺乳類の腸内に豊富に存在するにもかかわらず、競合する大部分の共生Enterobacteriaceae科細菌が利用できないエタノールアミンを炭素源および窒素源として利用することで腸内での増殖優位性を確保し、コロニー形成を実現している。このエタノールアミンは腸管出血性大腸菌およびネズミチフス菌によって、病原性遺伝子の発現を活性化するシグナルとしても利用される。

腸管出血性大腸菌は、腸管内腔に定着しコロニーを形成するプロセスで、共生大腸菌とは異なる糖源を利用するように進化してきた。具体的には、共生大腸菌が利用できないヘキスロネートグルクロン酸塩、ガラクツロン酸塩、およびスクロースを異化する能力の獲得によって、栄養素をめぐる激しい競争を回避し、コロニーを形成して感染を成立させるのだ。

微生物およびホストからのシグナルの検出

腸内細菌叢は、腸疾患のリスクおよびその経過に影響を及ぼす。この過程では、微生物およびホスト由来のシグナルの検出が重要なきっかけとなる。ホストと腸内細菌叢、病原性微生物の関わり方、そしてそれに関連するシグナルを、Vibrio cholerae(コレラ菌)および腸管出血性大腸菌を例にみていこう。

コレラ菌は、腸内細菌叢が広範に破壊されることによる爆発性下痢の主要原因である。バングラデシュで行われたコレラ罹患患者の糞便細菌叢のメタゲノム研究では、病状の回復は特定の細菌叢によって特徴付けられることが示された。無菌マウスを用いたこの細菌叢の再構成実験では、コレラ菌の感染力を制限することができた。

具体的には、草食性動物の胃に常在するセルロース分解菌であるRuminococcus obeumの存在は、コレラ菌のいくつかの定着因子を阻害するフラノンシグナル自己誘導因子-2を産生する。その結果、コレラ菌のコロニー形成が抑制されたようだ。

コレラ菌はまた、腸管内腔でコロニー形成している間、胆汁酸の組成に影響を与えうる腸内細菌と接触する。その中には、コレラ菌の攻撃力を抑制する細菌も存在する。例えば、Bifidobacterium bifidum(ビフィズス菌)は、3つの胆汁酸(グリコデオキシコール酸、タウロデオキシコール酸、コール酸)の胆汁酸デオキシコール酸への代謝変換を介して、コレラ菌が競合細菌を死滅させるために使用するⅥ型分泌システム(T6SS)の活性を負に調節する。その結果、共生大腸菌はコレラ菌による攻撃を免れることになる。

微生物起源のシグナルが病原性微生物のコロニー形成に及ぼす影響の別の例は、成体牛の直腸−肛門接合部にのみコロニーを形成する腸管出血性大腸菌が牛の第一胃を通過する際にも見られる。腸管出血性大腸菌は、胃の強酸性環境を無事に通過して直腸−肛門接合部に定着するためには、自身を再プログラムする必要がある。その時に使われるのが、センサータンパク質SdiAを介して検出した、第一胃の細菌叢が産生するアシル-ホモセリンラクトンシグナルである。

神経伝達物質もシグナルになる

病原性微生物は自身を改変するために、微生物起源のシグナルを直接検出できるだけでなく、微生物によって改変されたホスト由来のシグナルも検出できる。そのホスト由来のシグナルとは、神経伝達物質のノルアドレナリンだ。

腸は、しばしば脳と比較されるほど高度に神経支配されている。そして、神経伝達物質は消化管の重要なシグナルとして、腸管の蠕動、血液の流れ、イオンの分泌などを調節している。

腸内細菌叢は、腸管内腔における神経伝達物質の利用可能性、ならびにそれらの生合成に大きな影響を与えている。例えば、腸内細菌叢はセロトニンの生合成を誘導し、微生物由来の酵素活性は積極的に腸管内腔のノルアドレナリンのレベルを上昇させる

神経伝達物質のノルアドレナリンは、腸内細菌叢が修飾したホスト由来のシグナルの1つである。ノルアドレナリンは、腸神経系のアドレナリン作動性ニューロンによって合成され、グルクロン酸と結合してグルクロニドの生成を介してホストによって不活性化されている。しかし、腸内細菌が産生するグルクロニダーゼと呼ばれる酵素がグルクロン酸を脱共役させることで、腸管内腔のアクティブなノルアドレナリン量は増加する。

病原性微生物は、このアクティブなノルアドレナリンを検出できる。腸管出血性大腸菌、ネズミチフス菌およびVibrio parahaemolyticus(腸炎ビブリオ菌)などの病原性微生物は、膜結合ヒスチジンキナーゼQseCおよびQseEという2種のアドレナリン作動性センサーを介してノルアドレナリンを感知し、病原性遺伝子の発現を活性化させているのだ。

今後の展望

このレビューで取り上げた、腸内細菌叢、ホストおよび病原性微生物間の関連性についての機構的研究が可能になったのは、冒頭にも記した通り従来のアプローチと有機的に組み合せられた最新技術の成果と言える。

今後、さらなるメタボロミクスやイメージング質量分析、質量分析データの3次元マッピング技術などの洗練やパワーの向上は、微生物とホスト間の相互作用の複雑な化学的景観に高解像度なイメージを提供することによって、感染症を予防あるいは治療するために化学的操作を行うステージを設定するに至るだろう。メタゲノミクスと数学的モデリングの強固な結びつきは、腸内細菌叢の再構成の精度をさらに向上させることは間違いない。

このエキサイティングな時代では、急速に拡大する学際的な研究によって、微生物とホスト、病原性微生物との相互作用に迫るための新しい技術やメカニズムへの洞察がさらに生み出されていくことだろう。

■参考文献