2017年6月27日

パーキンソン病では短鎖脂肪酸は悪者になる?

腸脳相関という言葉があらわすように、腸と脳はたがいに密接に関わっていることが最近わかってきており、その関係の中で腸内細菌叢は大切な役割を果たしています。今回は、神経難病のひとつであるパーキンソン病における腸内細菌の役割をお伝えし、これまで健康に良いとされてきた腸内細菌由来の代謝産物である短鎖脂肪酸が、パーキンソン病では病気を進行させる可能性があるという驚きの結果を紹介します1)

パーキンソン病とは

パーキンソン病は進行性の神経難病です。50~60代で発症することが多く、加齢とともに患者数が増加する神経変性疾患です。

主な症状としては、手足のふるえ、手足のこわばり、緩慢な動作、転びやすくなる、などがあります。他にも、便秘や立ちくらみ、気持ちの落ち込み、乏しい表情、小刻みな歩行など、多彩な神経症状が起こります。

それらの原因として、中脳の黒質といわれる部分で神経細胞が変性・減少することが知られています。黒質の神経細胞は、大脳基底核という場所に接続していますが、神経同士の連絡のやり取りにドパミン(ドーパミンとも言う)が使われています。ドパミン性神経細胞の変性により、神経伝達物質であるドパミンの産生が減少し、特徴的な神経症状が起こります。

症状を和らげる治療としては、L-ドパというドパミンの前駆物質を服薬することが中心になります。

パーキンソン病における腸と脳の関係

パーキンソン病患者の神経細胞では、α-シヌクレインとよばれる繊維状のタンパク質が絡み合い、異常な形で集合して蓄積していることが知られています。

パーキンソン病患者の初期において、α-シヌクレインが胃壁などの末梢神経系の神経細胞内にも見つかっていることから、胃や腸などの消化管で発生したα-シヌクレインがしだいに脳に向かっていくことで発症するのではないか、という仮説が立てられています。

実際に、迷走神経切断術の手術を受けた人では、パーキンソン病を発症するリスクの減少が知られています。また、いくつかの報告から、パーキンソン病患者の腸内細菌叢は健康な人と異なることもいわれています2), 3)

パーキンソン病モデルマウスを用いた解析

今回紹介する論文では、神経細胞にヒトのα-シヌクレインを過剰発現させたパーキンソン病のモデルマウス(以下ASOマウス)を使っています。

通常飼育のASOマウスでは野生型マウスに比べて、運動機能が悪化し、腸の蠕動機能も下がりました(いわゆる便秘)。しかし、これらのマウスを無菌状態にすると、ASOマウスでも運動機能や腸蠕動能の低下は見られませんでした。

また、脳の神経細胞に蓄積するα-シヌクレインも、無菌のASOマウスでは非常に少ないことがわかりました。さらに、脳内の免疫細胞であるミクログリアは、パーキンソン病では活性化状態にあることが知られていますが、無菌のASOマウスではミクログリアの活性化も抑えられていました。

短鎖脂肪酸がパーキンソン病を悪化させる

次に、腸内細菌代謝産物として知られる短鎖脂肪酸の関与を調べるために、短鎖脂肪酸を飲水の中に混ぜてマウスに与えました。すると、短鎖脂肪酸を飲んだ無菌ASOマウスでは、ミクログリアが活性化し、α-シヌクレインの異常蓄積が生じ、運動機能や腸蠕動能が悪化しました。

次に、健康な人とパーキンソン病の人から糞便を集めて、それぞれをASOマウスに移植しました。その結果、パーキンソン病患者由来の菌叢をもつマウスで、パーキンソン病の症状がより悪化しました。その菌叢の中には、短鎖脂肪酸を産生する遺伝子が豊富に存在しており、具体的な菌としてはProteus Sp.やBilophila Sp.が多くいました。

すなわち、これらの菌から産生される短鎖脂肪酸が、パーキンソン病の病態を悪くしている可能性が考えられたのです。

短鎖脂肪酸は万能薬ではない?

今回紹介した論文では触れられていませんでしたが、脳の神経細胞を有害物質から守るバリア機能である「血液脳関門」や、神経伝達物質であるドパミンに、腸内細菌が影響を与えたのかどうかも気になるところです。

肥満などの生活習慣病において新しい治療薬の可能性がもてはやされている短鎖脂肪酸ですが、本当にパーキンソン病のリスクになるようであれば、やはり万能薬はないということになるのでしょうか。

■参考文献

  1. Sampson TR, et al. Gut Microbiota Regulate Motor Deficits and Neuroinflammation in a Model of Parkinson’s Disease. Cell. 2016; 167(6): 1469-1480.
  2.  Hasegawa S, et al. Intestinal Dysbiosis and Lowered Serum Lipopolysaccharide-Binding Protein in Parkinson’s Disease. PLoS One. 2015; 10(11): e0142164.
  3. Unger MM, et al. Short chain fatty acids and gut microbiota differ between patients with Parkinson’s disease and age-matched controls. Parkinsonism Relat Disord. 2016; 32: 66-72.