2018年2月27日

慢性疲労症候群を腸内細菌叢で診断できるかもしれない

慢性疲労症候群(ME/CFS)は、日常生活が損なわれるほどの強い全身倦怠感や、それに付随するさまざまな症状が長期に渡って持続する疾患です。その名前から強い慢性疲労と思われがちですが、そうではありません。2016年に疾患として正式に分類された症候群であり、診断方法も根治的な治療方法も確立していない疾患です。未だ疾患としての認知も進んでいません。重症になると介護が必要となることもあるため、厚生労働省でも調査が行われています。

今回紹介するニュースは、疾患であることが明らかになったME/CFSと、腸内細菌叢との関連についての研究に関する報告です。

患者と健常者の違いは何か

コーネル大学の研究者らは、血中の炎症マーカーなどとともに、腸内細菌叢の多様性についてのマーカーを、ME/CFSの診断に用いました。87人の被験者の内訳は、健常者群39人、患者群48人でした。

血中マーカーは微生物移行による組織障害を示した

まず、炎症や組織障害を示すさまざまな血中マーカーが測定されました。細菌など微生物の組織や血中への移行を示す指標として高感度C反応性タンパク質(hsCRP)およびリポポリサッカライド(LPS)、消化管傷害指標として血漿中の腸管内脂質結合タンパク質(I-FABP)、慢性のLPS刺激を反映する血漿中のLPS結合タンパク質(LBP)および可溶性CD14(sCD14)が測定されました。

これらの定量結果は、健常者群に比べて患者群で高い値を示す傾向が見られました。中でも、血漿中LPS、sCD14およびLBPの濃度中央値は、健常者群より患者群で有意に高い結果となりました(それぞれ健常者群 vs 患者群:74.74 pg/mL vs 119.43 pg/mL、1.36 ug/mL vs 1.97 ug/mL、12.32 ug/mL vs 17.68 ug/mL)。

このことから、患者では微生物の移行に伴う組織障害が起こっている、ということが明らかになりました。これは、細菌が血中に漏れ出ることにより、免疫応答を引き起こしたものと考えられました。このような障害がME/CFSの症状を悪化させている可能性が示唆されました。

患者群では腸内細菌叢の構成が異なっていた

細菌の持つ遺伝子情報を検出するための手法として、16s rRNAの高度可変領域V4のシークエンスを行い、便中の構成細菌群を明らかにしました。これを用いて、細菌の系統的な多様性を比較しました。その結果、患者では特に抗炎症性の細菌が少なく、炎症誘発性の細菌が多いことがわかりました。

構成細菌群を門レベルで比較したところ、健常者群では、ファーミキューテス門、バクテロイデーテス門、プロテオバクテリア門の順に優勢でした。相対的にベルコミクロリウム門やアクチノバクテリア門は少ない結果でした。

一方で患者群では、バクテロイデーテス門が優勢となっており、相対的にファーミキューテス門やプロテオバクテリア門は少なくなっていました。

そのため、相対的に様々な科の細菌の占める割合が、患者群では健常者群と異なる結果となりました。例えば、プロテオバクテリア門腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の細菌は、患者群では健常者群のおよそ2倍でした。また、バクテロイデーテス門の中でも、バクテロイデス科(Bacteroidaceae)は少なく、プレボテラ科(Prevotellaceae)は逆に多いなどの差が見られました。

患者群では腸内細菌叢の多様性が低い

糞便中細菌叢の網羅的な遺伝子データを用いた系統的な多様性解析において、患者群の多様性は健常者群に比べて有意に低い結果となりました。また、多様性評価の手法を用いて、菌叢を構成する菌種数の指標となる操作的分類単位(OTU)から評価できる種数、細菌叢の均一さおよび豊かさについての指数を算出したところ、同様に患者群の細菌叢の多様性が有意に低いという結果でした。種間の差異についての解析からも、患者群で差が少ないという結果でした。

具体的な菌種数の差については、40のOTUで患者群と健常群に有意差が見られました。それらは主にファーミキューテス門に属しており、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)などが含まれていました。

菌叢解析の結果、患者群で有意に多い特徴的な菌は、未分類のDesulfohalobacteriaceae科や、ファーミキューテス門のオシロスピラ属(Oscillospira)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、アクチノバクテリア門のエガセラ属(Eggerthella)などでした。

一方、健常者群では、患者群とは一致しない、主にファーミキューテス門に属する18属が豊富でした。例えば、ルミノコッカス科、ビフィドバクテリウム科(Bifidobacteriaceae)のフィーカリバクテリウム属(Faecalibacterium)およびビフィドバクテリウム(ビフィズス菌)属(Bifidobacterium)などが有意に多い特徴的な菌でした。

炎症マーカーと菌叢解析を組み合わせた診断正解率は83%

これらの細菌叢解析の結果および炎症マーカー(BMI、sCD14、LBP、LPS、I-FABP)の数値を用いて機械学習を行い、被験者のME/CFSの診断を行ったところ、正解率は83%という結果でした。

ちなみに、ME/CFSの診断に対するこうした試みは初めてではなく、過去には一塩基多型(SNPs)を用いた診断で正解率80%以上と報告されています。また、一部の患者で抗がん剤リツキシマブが奏効するという報告もあります。白血球を一掃してしまう薬剤ですが、ME/CFSの症状を軽減することから、この疾患と免疫システムの関連が示唆されています。

今回紹介した研究で、腸内細菌叢が新しい診断方法となる可能性が示唆されました。また、このような手法で腸内細菌叢の変化を明らかにすることで、食事の変更やプロバイオティクスの使用により症状を改善できるかもしれません。

参考文献

Researchers just linked chronic fatigue to changes in gut bacteria. Science alert. 29 JUN 2016 <2018.02.14アクセス>

Giloteaux, Ludovic, et al. “Reduced diversity and altered composition of the gut microbiome in individuals with myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome.” Microbiome 4.1 (2016): 30.

難病・慢性の痛み関連情報 |厚生労働省  <2018.02.14アクセス>