2017年3月14日

『100歳まで元気な人は何を食べているか?』書評——調べてわかった長寿菌

腸についていろいろ本を読んでいると、いかに生物が進化によって環境に適応してきたか、そのやり方に毎度舌を巻いてしまう。

ただ、複雑な生物になればなるほど、進化による適応には時間がかかってしまう。社会の変化により急に生活が「欧風化」したりすると、ぱっと見は変わらなくても、それまで思いも寄らなかった影響を受けてしまうことはままあるものだ。いつもの習慣が自分たちの身体にどんな影響を及ぼしていたかもわからないまま、便利さと能率に押し切られて身についた新しい習慣で身体のバランスを崩していたとしたら?

これはもう、身体のメカニズムと新旧の習慣がどう関わり合っていたか、その因果をきちんと紐解いていくしかない。腸内細菌の世界的権威である辨野義己博士による『100歳まで元気な人は何を食べているか?』(三笠書房)を読んで、ついそう思わされた。

食物繊維たっぷりの地元名産が健康長寿を支える

腸内細菌学の学徒として、その若き日から辨野博士は日本各地の健康長寿地域(時には短命地域)を周り、そこでの健康長寿の要因として、発酵食品はもちろんのこと、むしろそれよりも食物繊維たっぷりの食品、雑穀や野菜を取り入れた食生活があることに気づく。実のところ、筆者にとっては健康長寿を支えるその土地その土地の名産紹介からして、食欲をそそってしょうがない(わがままを言えば、これらをすべてカラー写真、できればレシピ付きで紹介してほしかった)。

まず、病気や寝たきりのお年寄りが比較的少ないという山形県の棡原(ゆずりはら)では、根菜ときのこの入った「ほうとう」。にんじんの紅とうどんの白で縁起を担いだ「お祝いうどん」も! あと、丸麦を炊いた郷土料理「おばく」とは一体どんな味わいだろうか。

全国平均の3倍近い百寿者がいる奄美大島には、パパイヤの漬け物や、自家製みそに焼き魚の身を混ぜた「魚味噌」というのがあるそうだ。また、この本で初めて存在を知った名物の発酵飲料「ミキ」は、粥にサツマイモ粉末を加えることでイモ由来の乳酸菌Leuconostoc属が作る、米の発酵ジュースなのだとか。調べてみると、地元の複数の業者が紙パックなどに詰めて発売していて、時間が経つと過発酵で味も変わってしまうらしい。

加えて、奄美のなかでも本郷かまとさんや泉重千代さんという著名な長寿者を生んだ、徳之島のアオサのてんぷらや、パパイヤの酢の物・炒め物。沖縄県のなかでも、島民が健康長寿を保ち続けている南大東島の、昆布・冬瓜・豚あばら肉のみそ汁「ソーキ汁」も食したい!

そのほか、「寝たきりにならない村」の異名を取る群馬県・南牧村で、おかずやお茶請けとして出される、砂糖やごまを混ぜたみそをシソで巻いた「シソ巻き」。大分県姫島の、自家製みそにナスやにんじんの塩漬けを細かく切って混ぜた「納豆みそ」、そして薄く切って干したサツマイモともち米を練り合わせた「かんころ餅」と、サツマイモ粉を練った麺「いもきり」など、どれも気になるものばかりだ。

便の中にいた長寿菌

これら食物繊維が豊富な郷土料理は、食欲をそそるだけではない。食べた人の便を調べると、長寿に関わる菌の量に著しい差が出たという。例えば、奄美大島の100歳のおばあちゃんの便からは、従来から腸内環境によいとされているBifidobacterium bifidum(ビフィズス菌)が、1グラムあたり約31億個見つかった。これは、60~80代の平均の30倍以上だ。

徳之島と南大東島での調査では、ビフィズス菌に加え、食物繊維から「酪酸(らくさん)」という物質を作る「酪酸産生菌」の仲間であるFaecalibacterium属(大便菌)とLachnospira属も長寿に関わっているという仮説に確証が得られた。両島の元気なお年寄りの便では、これら3種の菌の割合が6割前後、南大東島の101歳のおじいさんにいたっては、大便菌だけで6割、3種を合わせると8割を占めていたのだ。

辨野博士は、これら3種の総称を「長寿菌」と名付け、今まで調査してきた奄美大島や姫島などで協力者の便を再チェックした。思った通り、元気なお年寄りの便から、長寿菌が6割前後の割合で見つかった。辨野博士は、「長寿菌が腸内細菌の4~6割を占めていれば健康長寿を達成できる」と結論づけた。

登場した数々の長寿の土地では、土地の人がその地で豊富に手に入る食材を適切な料理法で摂取するなどして、いつの間にか長寿の条件を満たすようになっていたのだ。これは、食文化による環境適応といえる。

健康長寿地域に残るのみで、今はほとんどの場所で失われた食習慣の好影響をひとたび精査できたなら、今度はその要素を取り入れればよい。長寿菌を育てる食物繊維たっぷりの野菜を充分に摂ることはもちろん必須。その食物繊維を十二分に活かす発酵食品も一緒に手軽に摂るために辨野博士が提案するのが、自身も毎朝飲んでいるという特製ヨーグルトドリンクだ。ヨーグルト、豆乳、乳酸菌飲料、バナナ、おから、ハチミツ、抹茶をミキサーで混ぜる。本書の後半では、このドリンクの材料や、各種野菜など腸内細菌を整える食材について詳しく解説される。

腸内細菌が適応したから今の私たちがいる

後半ではまた、消化管のなかで共生する細菌の役割の例についても語られる。炭水化物ばかり食べていたパプアニューギニア高地人たちは、タンパク質をどうやってまかなっていたのか。実は、彼らの持つ腸内細菌が、窒素からタンパク質を合成する能力を持っていた。

同様に、日本人の腸内細菌にも、海藻を分解する遺伝子が認められた。海藻をたびたび口にすることで、海藻に付いていた細菌から腸内細菌に、海藻を分解できる遺伝子が取り込まれたのだろう。

高等動物は、すぐには環境に適応できない。ならば、次々と世代交代することで進化が早い細菌たちに適応してもらい、こちらからは住み処と食物を提供し、こちらへは特殊な食物の分解機能を提供してもらうという共生を続ければよい。それもまた、今までの我々の先祖らの環境適応のかたちであったのだ。

今までの食文化を科学で読み解く営みは、人間の環境適応の決め手を一つずつ見つけていくことでもある。この知恵を活かして、私たちの健康につなげたいものだ。