プレバイオティクスとプロバイオティクスって、なに?―いま改めて正しい知識を!
腸の健康に気を使っている方々にとっては、プレバイオティクスもプロバイオティクスもとてもなじみ深い言葉だろう。それぞれの言葉が何を意味しているのか、基礎知識としていま改めて整理しておこう。
プレバイオティクスとは
プレバイオティクスという言葉は、1994年に開かれた「腸内菌叢 栄養と健康」と題するワークショップで、イギリスの微生物学者GibsonとRoberfroidによって提唱され、その翌年に2人によって発表された総説「Dietary modulation of the human colonic microbiota: introducing the concept of prebiotics.」で次のように定義された。
プレバイオティクスの定義
大腸内に定着している特定の細菌群の増殖や活性化を促すことによって、宿主に有利な影響を与え、その健康を改善する効果をもつ難消化性物質(炭化水素)で、下の3条件を満たすものである。
・哺乳類の胃酸などの酵素による加水分解と消化吸収に耐性がある
・腸内細菌の働きによって発酵する
・腸内細菌の増殖・活性を選択的に刺激し、宿主の健康に寄与する
プレバイオティクスの条件を満たす食品成分は、オリゴ糖類(イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、グルコン酸、ゲンチオオリゴ糖、コーヒー豆マンノオリゴ糖、大豆オリゴ糖、トランスガラクトオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖、マルトオリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース)と食物繊維(イヌリン、ポリデキストロースほか)で、このようにさまざまな種類がある。
これらのプレバイオティクスの摂取によって、乳酸菌やビフィズス菌、納豆菌を含む糖化菌などの増殖が促進される。そのほかに健全な腸内細菌叢の働きと重なるものではあるが、整腸作用やミネラルの吸収促進作用、炎症性腸疾患の予防・改善など、健康維持に効果があるという報告がある。
プロバイオティクスとは
プロバイオティクスの概念は、ウクライナ出身の生物学者Metchnikoffが実験と疫学調査に基づいて著した「加齢と長寿、自然死に関する楽観的研究」(1907年)の中で紹介したヨーグルトの摂取は腸内の腐敗菌の活動を抑制するので健康が維持できるという記述からスタートしている。1989年、イギリスの微生物学者Fullerはプロバイオティクスを腸内細菌叢(腸内フローラ)バランスの改善を通して宿主に有益に働く生菌添加物とシンプルに定義した。2002年FAO/WHOは宿主に適当量与えたとき健康効果を発揮する生きた微生物と定義し、現在に至っている。
プロバイオティクスが満たすべき条件
・摂取後、宿主に有益な効果を発揮する
・非病原性および非毒性である
・数多くの生きている細胞が含まれている
・腸内で生き残る能力および代謝能力を持つ
・保管中および使用中に生命を保持している
・食品に含まれる場合、摂取に違和感のないクオリティである
プロバイオティクスが大切な理由
腸内細菌叢のアンバランス
プロバイオティクスのもっとも基本的で大切な働きはFullerの定義にもあるように、腸内細菌叢(腸内フローラ)バランスの改善である。私たち人類にとって、腸内細菌叢は長い歴史をともにしてきた共生微生物であり、次の5つの機能を受け持っている。
・腸からの病原体の侵入を防ぐとともに病原体を排除する
・食物繊維を消化して、酢酸などの短鎖脂肪酸を作り出す
・ビタミン類(B2、B6、B12、K、葉酸、パントテン酸、ビオチン)を作り出す
・ドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質を作り出す
・腸粘膜細胞とともに免疫力のおよそ70%を作り出す
しかし、食習慣などの影響を受けて腸内細菌叢のバランスが崩れると、人体に悪影響を及ぼすような菌が増殖しやすい環境になり、上記の5つの機能が十分に果たせなくなる。この崩れたバランスを取り戻すための切り札がプロバイオティクスなのだ。
プロバイオティクスに含まれる菌類
乳酸菌とビフィズス菌が代表菌と言われるが、そのほかに納豆菌を含む糖化菌、酪酸菌などが含まれる。
乳酸菌には、牛乳に含まれる乳糖を栄養源に繁殖し、チーズや発酵バターに含まれている動物性乳酸菌(Lactococcus lactis, L. cremoris:チーズ、Lactobacillus acidophilus, L. casei, L. delbrueckii, Bifidobacterium breve, Streptococcus thermophilus:ヨーグルト)と、植物に含まれるブドウ糖、果糖、麦芽糖を栄養源に繁殖し、漬物(Lactobacillus plantarum:ぬか漬けやキムチ、Lactobacillus otakiensis, L. kisoensis, L. sunkii, L. rapi :すんき漬、Leuconostoc mesenteroides:ザワークラウト、Pediociccus damnosus:ピクルス)、醤油と味噌(Ttetragenococcus halophilus)など伝統的な発酵食品に含まれる植物性乳酸菌とがある。乳酸菌は、腸内ではビフィズス菌が増殖しやすい環境を作り出す働きをしている。
ビフィズス菌はすべての動物の腸住む常在菌で、人類からは5種(Bifidobacterium bifidum, B. breve, B. longum longum, B. longum infantis, B. adolescentis)が知られている。
納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)などの糖化菌はアミラーゼを産生しデンプンを糖に分解することで、共生関係にある乳酸菌の増殖を促進する働きをもっている。
酪酸菌(Clostridium butyricum 等)は食物繊維を分解し、酪酸を産生する。
プロバイオティクスの働き
プロバイオティクスとして導入された乳酸菌やビフィズス菌は、乳酸を産生する。乳酸はさらにビフィズス菌などによって酢酸やプロピオン酸、酪酸へと変化していく。そして腸内の酸性度はpH5〜6となり有害細菌の生育を抑制することで腸内細菌叢のバランスが回復する。
その結果、腸内細菌叢が支えていた整腸作用、具体的には、血中脂質の改善、便秘の解消、下痢予防、カルシウムなどミネラルの吸収促進、免疫調節効果、アレルギー予防効果、病原菌による感染の防御、大腸癌の予防などの機能も回復するのである。
■参考文献
プレバイオティクス(prebiotics)- 日本ビフィズス菌センター
プレバイオティクスと腸内フローラ
Probiotics in food -Health and nutritonal properties and guidlines for evaluation-
深化するプロバイオティクス研究
ビフィズス菌による「整腸作用」と「免疫調節作用」
乳酸菌とビフィズス菌の一般特性