【Mykinso Pro導入例】全国に先駆けて腸内細菌外来を設立——医療法人山下病院(愛知県一宮市)
今回のMykinso Pro導入例では、2018年1月に腸内細菌外来を新設された愛知県一宮市の医療法人山下病院をご紹介します。インタビューにお応えくださったのは、腸内細菌外来立ち上げの中心メンバーで消化器内科医長の泉千明先生と、腸内細菌外来の栄養指導のほか、人間ドックの保健指導を担当されている管理栄養士の宮田絹江先生です。
(左)泉医師。現在の医学だけでは解決できないものがあり、腸内細菌を調べることで活路を見いだせないかと興味をもっています。(右)宮田管理栄養士。カルテとMykinsoProの結果を参照しながら、栄養指導をおこないます。
全国に先駆けて設立した腸内細菌の専門外来
——さっそくですが、腸内細菌外来を設立された経緯をお聞かせください。
泉先生:2017年10月に福岡で開催された日本消化器病学会大会で、本院の松崎医師がサイキンソーのブースに立ち寄ったことがきっかけです。ちょうどそのころ、便秘外来を作りたいと考えていたので、腸内細菌を調整することで便秘が解消できれば、と思いました。
——それまでは高額でなかなかできなかった腸内細菌検査が、キットでできるなんて革命的だと感じられたそうですね。外来の新設から8ヵ月ほどで、150名を優に越える方が検査を受けておられますが、患者さんにはどのようにすすめていらっしゃるのでしょうか。
泉先生:従来の検査や投薬で改善が見られない患者さんに、腸内フローラを調べてみてはどうかとおすすめしています。まずは定型の検査をおこなって、重大な病気が隠れていないかを確認します。腸内細菌検査をすすめるのは、それからです。
宮田先生:脂肪肝の患者さんの栄養指導や人間ドックの保健指導の際、メタボの方などに「こういうものもありますよ」とご紹介しています。F/B比(太りやすさ)を知っておくといいので。
腸内細菌検査で下痢や便秘を改善できた2例
Mykinso Proの結果が治療に活かせた例として、以下をご紹介いただきました。いずれも、従来の検査では原因が特定できなかったケースです。
《Case 1 下痢》
30代男性。数年前から便がゆるく、仕事に行くと症状が悪化していた。大腸内視鏡検査では異常を認めず、腸内細菌外来を受診。
腸内細菌検査の結果、ビフィズス菌がやや少なかったこの患者さんには、プロバイオティクスとしてヨーグルト、プレバイオティクスとしてバナナやハチミツを摂るようにすすめ、4週間後に症状が改善。
《Case 2 便秘と下痢》
20代女性。数年前から便秘と下痢を繰り返し、間欠的な腹痛を認めていた。大腸内視鏡検査、便培養検査では異常を認めず、過敏性腸症候群(IBS)を疑い投薬するも改善せず、腸内細菌外来を受診。
腸内細菌検査では、ビフィズス菌は非常に多く認められたが、乳酸菌は0パーセントだった。プロバイオティクスとしてヨーグルト、味噌、キムチ、乳酸菌飲料などをすすめたところ、2週間で便秘、下痢が改善。3ヵ月後には乳酸菌の増加が認められた。
栄養指導できめ細やかなカウンセリング
——宮田先生は栄養指導の際に、食生活について細かい聞き取りをおこなっておられるそうですね。
宮田先生:肥満・下痢・便秘などに関しては、毎食の献立といった食生活を聞き取ることで、問題点が見つけやすくなります。食生活全般にわたる指導と併せて、食物繊維や短鎖脂肪酸について説明し、腸活(補菌・育菌・運動・睡眠)の指導もおこなっています。
——サプリをすすめることもありますか。
宮田先生:乳製品を摂れないIBDの方にビフィズス菌末のサンプルを差しあげたり、クローン病の方に酪酸産生菌を増やす効果がある水溶性食物繊維のグアーガムをお薦めしたりします。
泉先生:売店に小さなサプリコーナーを設けています。エクオール産生菌を持っていない人はエクオールが作れないため、サプリがあることをお伝えしていますね。
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エクオールは大豆イソフラボンの成分を元に腸内細菌が作りだす物質で、更年期症状の軽減などに効果があります。しかし、エクオールを産生できるのは、日本人の2人に1人程度です。Mykinso Proでは、自分がエクオール産生菌をもっているかどうか知ることができます。
低FODMAP療法の可能性
——食事に気をつけたり菌を補ったりして腸内フローラを整えても、症状があまり改善しない患者さんのために、なにかできることはありますか。
泉先生:低FODMAP療法の導入を考えており、サイキンソーとの共同研究として春先にトライアルを実施したところです。FODMAPは以下の頭文字で、炭水化物などに含まれる特定の糖質を示します。
・F: fermentable(発酵性の)
・O: oligosaccharides(オリゴ糖:はちみつ、大豆製品等)
・D: disaccharides(二糖類:牛乳、ヨーグルト、海藻類、きのこ類等)
・M: monosaccharides(単糖類:果物等)
・A: and
・P: polyols(ポリオール:糖アルコール、ガムなどの菓子類)
IBSでは、FODMAP糖質を多く含む高FODMAP食材と腹部症状(腹痛、お腹の張り、軟便、便秘等)の関連が示唆されています。低FODMAP療法は、これらFODMAP糖質を除去する食事療法です。
——トライアルはどのようにおこなわれたのですか。
泉先生:トライアルでは、IBSの患者さん12名の協力を得て、FODMAPの5系統すべてを抜いたレシピ通りの除去食を2週間続けていただきました。下痢の症状がよくなるのではないかと予想して臨んだトライアルでしたが、顕著な効果が認められたのは、腹部膨満の症状改善でした。お腹にガスが溜まる症状に悩んでいた患者さんは、トライアル開始後数日でお腹がへこんで、ガスが溜まらなくなったのです。この療法が合うと思われる患者さんがたくさんいらっしゃるので、治療法として確立して提供していきたいと考えています。
——お腹の不調は生活の質に大きく影響するので、不快な症状を和らげるための選択肢が増えるというのは朗報ですね。
消化器の専門病院としてお手伝いできること
——地域の中核を担う消化器専門病院に、腸内細菌の専門外来が誕生した意義は大きいと思います。連携する地域の医院の医師や患者さんにお伝えしたいことがあれば、お願いいたします。腸内細菌外来のドクター、管理栄養士としての、意気込みなどもお聞かせください。
泉先生:腸内細菌ですべてが解決できるとはいえず、まだまだ研究が必要な領域ですが、消化器の専門病院だからこそ、従来の検査と腸内細菌検査を組み合わせ、消化器症状の原因検索のアプローチのひとつとして活用することができると考えています。今後、この分野がますます臨床につながっていくことを、期待しています。
宮田先生:消化器症状のある患者さんが腸内細菌の検査と栄養指導を受けて、ご自分の食習慣を見直すきっかけにしていただきたいです。聞き取りをおこなうと、する必要のない食事制限をしていたり、食習慣にかなり偏りがあったりということが、しばしばあります。「普通の食事をしています」とおっしゃる患者さんが多いのですが、“普通”の解釈も、なかなか難しいですね。お薬などの前に食生活を見直す、運動を取り入れる習慣を身に付けるといった“気づき”のお手伝いができればと思います。
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最後に、「現状では割合を出せる菌の種類が限られており、それぞれの役割が解明されていない部分もあるため、今後の腸内細菌の研究に期待しています」とお言葉をいただきました。泉先生、宮田先生、貴重なお話をありがとうございました。
■医院情報
名称 | 医療法人山下病院 |
所在地 | 〒491-8531 愛知県一宮市中町1丁目3番5号 |
電話 | 0586-45-4511(代) |
ウェブサイト | https://www.yamashita-hp.jp |