2016年7月21日

繊維不足の食事はたたる! ― 腸内細菌叢の多様性を支えるもの

繊維不足の食事はたたる

食物繊維が不十分な食習慣が数世代続くと、腸内細菌叢は不可逆的な影響を受ける。スタンフォード大学医学部のSonnenburg博士を中心とする研究チームがマウスを用いた実験で発見したこの驚くべき事実が、『Nature』誌の2016年1月14日号に発表された。

いま食物繊維を考える

食物繊維摂取量の変遷

現代アメリカ人が食物から摂取している1日あたりの食物繊維はわずか15g。パプアニューギニアなどで狩猟採集文化を守っている人々と比べると、食物繊維の摂取量はその10分の1でしかない。そしてこのような低繊維食は、少なくとも3〜4世代は続いてきたと考えられている。

ヒトゲノムからはおよそ12種類の炭化水素分解酵素が生成されるが、同じ炭化水素でありながら炭化水素ポリマーである食物繊維を消化することは出来ない。言い換えると、人類は食物繊維を栄養源としては利用できないのだ。

このような背景もあって、20世紀半ば以降食物繊維をほとんど取り去る処理をされた加工食品が誕生し、増加してきた。その結果、1日あたりの食物繊維摂取量が15gまで低下したのだ。

食物繊維質の働き

医師や栄養士は、心臓病や腸疾患予防のために食物繊維を積極的に摂取するように指導や啓蒙を行ってきた。それは食物繊維が健康を調整するために重要な働きを果たしているからだ。

同時に、食物繊維は腸内細菌叢を維持するという機能も併せ持っていると考えられていた。

食物繊維質欠乏がもたらすもの

そこでSonnenburg博士のチームは、食物繊維の欠乏が腸内細菌叢に与える影響を確認するために、つぎのような実験を行った。

■実験1(低繊維食の影響)

まず無菌室で飼育している無菌マウスに、任意の常駐細菌群を除いた人間の糞便サンプルを移植して腸内細菌叢を確立させる。そして実験群を2つに分け、一方には高繊維食を、もう一方には食物繊維だけを除去した低繊維食を7週間にわたって与えたうえで、糞便を分析して腸内細菌叢の構成の変化を探ろうというものだ。

その結果、高繊維食群の腸内細菌叢に変化はなかったが、低繊維食群では実験開始時に存在していた腸内細菌叢構成種の半分以上の細菌について、その細胞数は75%以上減少していた。

そこで、低繊維食群の餌を高繊維食に切り替えたところ、失われた細菌叢のかなりの部分は回復したものの、7週間にわたる低繊維食の影響は大きく、結果として実験前の腸内細菌叢構成種の3分の1は回復することがなかった

7週間にわたる低繊維食は腸内細菌叢の多様性を3分の2に抑える結果になった。

■実験2(低多様性は世代を超える?!)

現代アメリカ人は、少なくとも3〜4世代にわたって低繊維食が続いている。そこで、世代を超えて低繊維食を続けた場合の影響を調べるために、同じマウスを使った実験が続けられた。

研究チームは、低繊維食群と高繊維食群を同条件で飼育しながら、それぞれの群内で繁殖を行わせた。

生まれたマウスの子世代は親世代との接触を通して腸内細菌叢を確立する。これが第4世代に至るまで繰り返された。

そして第4世代の腸内細菌叢を調べた結果、高繊維食群では世代間の差異が認められなかったが、低繊維食群では第1世代で確認された腸内細菌叢構成種の75%が失われていた。

そして一度失われた多様性は回復させられないことが、各世代に共通する特徴だった。

回復の手立てはたった1つ

そこで低繊維食群の第4世代に、高繊維食群の第4世代の糞便サンプルを移植したところ、低繊維食群の腸内細菌叢は完全に回復し、対照群との差異も検出できなくなった。

食物繊維は、私たち人間にとっては栄養源として利用できない炭化水素ではあるが、腸内細菌叢の多様性を支えるためには重要な意味があったのだ。

腸内細菌叢は共進化のたまもの

先進国で暮らす人々とは異なり、伝統的な狩猟採集文化を守り続けている人々の腸内細菌叢の多様性がたいへん高く保たれていることが、つぎつぎと明らかにされてきた。

この多様性は、長い時間を掛けて摂取されたさまざまな食物繊維と、それを消化する分解酵素を産生できる腸内細菌との共進化の結果なのだ。

近い将来、このまま西洋式の低繊維食を摂り続けると、腸内細菌叢の多様性は損なわれ、本質的な機能を失ってしまうだろう。それらを取り戻すためには、腸内細菌叢が低繊維食の影響を一切受けていない人や動物に由来するプロバイオティクス製剤が必要になるかもしれない。

 

■参考文献
Diet-induced extinctions in the gut microbiota compound over generations