2017年3月28日

大腸で栄養素をめぐる病原性細菌と腸内細菌叢の争い

カリフォルニア大学医学部デービス校細菌学・免疫学講座のA. J. Bäumler博士とテキサス大学医学部細菌学・生化学講座のV. Sperandio博士は、『nature』online版2016年7月7日号の腸内細菌叢に関するレビューで、腸内細菌叢と病原性細菌との相互作用について最新のデータを紹介している。

大腸に侵入した病原性細菌は、栄養摂取をめぐる腸内細菌叢との相互作用をへて病原性を発揮することを報告している。そこで、大腸に侵入した病原性細菌がどのような栄養素を利用し、どのような細菌類と競合するのかについて紹介しよう。

大量の物質を網羅解析するアプローチ

Bäumler博士らは、腸内細菌叢とホストそして病原性細菌間の相互作用を明らかにするために、これまでどおり次世代シーケンサーを用いながらも、新しい革新的なアプローチをおこなった。

そのひとつは、腸内細菌叢構成の変化を確認するためのトランスクリプトーム解析である。トランスクリプトーム解析では、細胞が受けたさまざまな外的刺激に応じて刻々と変化する、細胞中のすべてのmRNAを網羅的に把握できる。

そしてもうひとつのアプローチは、腸内細菌叢と病原性細菌の両方が大腸の代謝環境に及ぼす影響を把握するためのメタボローム解析である。メタボローム解析では、細胞内の酵素が産生する全代謝物質、すなわち、細胞活動によって特異的に生じる代謝中間体、ホルモン、シグナル分子、二次代謝産物などの分子を網羅的に把握できる。

その結果、細菌群とホストとの相互作用解明の前提となる、多様な細菌群が大腸の中でどのように栄養素を獲得しているのかが明らかになってきた。

このようなアプローチが成功したのは、細菌ならびにマウスをメインとする哺乳動物(ホスト)の遺伝的な扱いやすさがあったからにほかならない。

大腸に届く栄養資源と、影響を与える複数の要因

私たちが食物として摂取した炭化水素は、消化酵素のはたらきによってさまざまな単糖や多糖に分解され、最終的な分解産物である各種の単糖は私たち自身によって小腸で完全に吸収される。そのため、結腸内の腸内細菌叢および病原性細菌は、ヒトの消化作用による単糖を炭素源としては利用できない。

かれらが利用できる炭素源は、未消化の食物繊維と、腸上皮の保護粘液層を構成するムチンなどに代表されるグリカンである。糖タンパク質であるムチンには、フコース、ガラクトース、シアル酸、N-アセチル、N-アセチルグルコサミンおよびマンノースなどが豊富に含まれている。これらの多糖は、腸内のBacteroides属細菌など、糖分解能力をもつ細菌叢のメンバーによって消化され、この能力を欠く細菌叢内の種が利用できるようになる。

・細菌叢構成の変化に伴う栄養環境の変化

このような大腸内の栄養環境は、腸内細菌叢構成に依存している。私たち各個人の細菌叢構成は属および種レベルではユニークであるが、一般的には高次の分類群である門レベルでとらえられており、優占度でみるとバクテロイデーテス門およびファーミキューテス門が高く、プロテオバクテリア門およびアクチノバクテリア門がそれに続いている。

このような腸内細菌叢の構成は常に安定しているわけではなく、さまざまな原因によって変化する。そして、この変化と並行して、大腸内の栄養環境も変化する。

・食餌による細菌叢の変化

腸内細菌叢の変化に大きな影響を及ぼすもっとも身近な要因は、食生活である。無菌マウスで確認された例としては、enterohaemorrhagic Escherichia coli(EHEC 腸管出血性大腸菌O157:H7)によるコロニー形成およびその結果生じる疾患の重篤度および長さは、食餌内容の選択に影響されることが示されている。

また、腸管出血性大腸菌の代用品として、マウスモデルにおいて広範に使用されるCitrobacter rodentium(腸粘膜肥厚症菌)では、食餌に植物質を補充した場合、腸粘膜肥厚症菌のコロニー形成から保護的なはたらきを持つClostridium属菌の増殖が促進された。

・抗生物質による細菌叢の変化

Bäumler博士らは、主にSalmonella Typhimurium(ネズミチフス菌)と腸管出血性大腸菌、そして Clostridium difficile(ディフィシル菌)などの病原性細菌を用いて、腸内細菌叢との相互作用を研究している。

このうちディフィシル菌は、院内感染の原因菌のひとつであるが、疾患を引き起こすことなく哺乳動物の腸に定着することができる芽胞形成細菌である。しかし、ときとして大腸に大きなコロニーを形成し、トキシンAおよびトキシンBという2つの毒素を介して大腸炎を引き起こす場合がある。このディフィシル菌によって媒介される大腸炎の最も重要な危険因子が、抗生物質の使用である。

抗生物質は、腸内細菌叢構成菌や病原性細菌のほとんどを無差別に死滅させる。このとき、抗生物質の影響を芽胞の状態で耐え抜いたディフィシル菌やネズミチフス菌などは、抗生物質の効力が低下するにしたがって活動を開始するが、爆発的に増殖することはない。

その後、過酷な環境を何とか生き残ったBacteroides thetaiotaomicronが、競合細菌が減少している間に増殖する。B. thetaiotaomicronは、食物繊維や粘液などを構成するグリカンを体外消化することで、大腸内の遊離シアル酸量を増大させる。その結果、シアル酸の異化によって炭素源を得ているディフィシル菌やネズミチフス菌は増殖を始める。

さらに抗生物質の使用は、B. thetaiotaomicronに、有機酸やコハク酸などの産生を誘発させる。有機酸やコハク酸は、ディフィシル菌に増殖優位性を付与する栄養素であるため、ディフィシル菌の大きなコロニーが形成される。

このような細菌叢の破壊的変化が、いわゆる善玉菌や日和見菌による炎症を引き起こす能力に与える影響についての知識は蓄えられはじめたばかりでるが、根底にある2つのテーマは、腸内細菌叢構成の変化とそれに並行する代謝産物の変化、そして炎症による代謝産物の変化である。

栄養素をめぐる細菌間の争い

いくつかの研究は、B. thetaiotaomicronBacteroides属細菌のモデルとして使用し、これらの合成的リンクを調査している。シアル酸は、いくつかの粘膜グリカンの末端糖であり、B. thetaiotaomicronは、シアリダーゼ活性を有するが、シアル酸の利用のための異化経路を欠いている。そのためシアル酸を放出しながらも、グリカンへのアクセスを続けることとなる。

B. thetaiotaomicronはまた、粘液からフコースをもリリースする。これは、ホストのグリカンからフコースを切断することができる複数の酵素を保有するからで、こうして産生された遊離フコースもまた、ネズミチフス菌の炭素源として使用される。

・腸管出血性大腸菌と共生大腸菌の争い

腸内細菌叢は、通常、大腸内腔および外粘液層に存在している。しかし腸管出血性大腸菌は、腸上皮の腸細胞に密着して独自のニッチを達成することを目指している。その目標を達成するためには、栄養素をめぐって微生物と競争しなければならない。

単糖類及び二糖類を利用する腸管出血性大腸菌の主な競争相手は、哺乳動物の腸内で成長したときに優先的に炭素源としてフコースを利用する共生大腸菌である。そこで、この競争を回避するために、腸管出血性大腸菌は、共生大腸菌が最適に異化できないガラクトース、ヘキサラン、マンノース、およびリボースなどの糖を利用する。

腸に定着する腸管出血性大腸菌の能力は、共生大腸菌も利用する糖の​​供給源の違いに由来している。例えば、栄養要求が重複する共生大腸菌の株が複数存在すると、腸管出血性大腸菌がマウス腸でコロニー形成できないことが明らかにされた。この研究ではストレプトマイシン処理したマウスモデルと3系統の共生大腸菌を使用して、腸管出血性大腸菌が腸への定着を成功させるために要求する糖質を評価した。その結果、共生株のいずれかが事前にコロニー形成しているマウスでは腸管出血性大腸菌は定着できたが、事前に3つのすべての共生株がコロニー形成していると定着できなかったのだ。

・腸管出血性大腸菌および腸粘膜肥厚症菌とB. thetaiotaomicronの争い

腸管出血性大腸菌および腸粘膜肥厚症菌は上皮の内層に到達するために、ムチン型糖タンパク質のタンパク質骨格を切断するムチナーゼを産生する。これらの酵素の発現は、B. thetaiotaomicronによって生成される代謝産物によって増加する。腸管出血性大腸菌および腸粘膜肥厚症菌が定着すると、結腸内の糖の主な供給源のひとつである粘液層が喪失するため、上皮近傍に栄養不足の環境が作り出され、糖質以外からグルコースを産生する糖新生が引き起こされる。

マウス腸へのB. thetaiotaomicronによるコロニー形成は、コハク酸などの有機酸のレベルを上昇させるなど、マウスの腸の代謝を大きく変化させる。さらにそれは乳酸塩及びグリセリンなどの糖新生の環境を示すいくつかの代謝物値の上昇につながっている。

・腸粘膜肥厚症菌と共生大腸菌とB. thetaiotaomicronの争い

腸粘膜肥厚症菌は、栄養補給のために単糖類について共生大腸菌集団と競合するため、共生大腸菌集団が増殖すると腸粘膜肥厚症菌はマウスの腸から排除される。また、マウスに単糖類のみからなる食餌を与えると、腸粘膜肥厚症菌とB. thetaiotaomicronは単糖類をめぐって競合し、やはり腸粘膜肥厚症菌はマウスの腸から排除される。

しかし、単糖類およびBacteroides属細菌が利用する多糖類の両方を含む食餌を与えられる無菌マウスでは、腸粘膜肥厚症菌はB. thetaiotaomicronによって除去されることはない。つまり、病原性細菌は栄養素をめぐって競合種に勝利しなければ大腸内にコロニーを確立できないのだ。

 

この稿では、大腸に侵入した病原性細菌が、どのような栄養素を利用し、またどのような細菌類とどのように競合しているのかについてまとめた。しかし、病原性細菌はここで取り上げた栄養素を、単に栄養として増殖に利用するばかりでなく、シグナルとして利用したり、腸内の酸性度の変化を利用したり、また、炎症を誘発して腸内環境を変化させて金属イオンの獲得を容易にしたりすることで病原性を発揮している。このプロセスでは、栄養素との関連で腸内細菌叢が病原性細菌の侵略に抵抗したり、逆に支援したりすることがあり、そのきっかけなどが次第に明らかになってきた。引き続く稿では、栄養素の別のはたらきを紹介しよう。

■参考文献

Bäumler AJ, et al. (2016) Interactions between the microbiota and pathogenic bacteria in the gut. nature 535: 85–93.

遺伝子発現とトランスクリプトーム解析ソリューション – イルミナ社

メタボロミクス解析について – 株式会社島津製作所