2016年9月13日

妊娠中の高脂肪食は、新生児の腸内フローラに大きな影響を与えるようだ!

妊娠中の高脂肪食は、新生児の腸内フローラに大きな影響を与えるようだ!

ベイラー医科大学のAagaard准教授が率いる研究チームは妊娠第3期の妊婦を対象に、妊娠中および授乳中の高脂肪食が新生児の腸内フローラに与える影響を調査し、その注目すべき結果をGenome Medicine2016年8月9日号に発表した。

調査の概要

妊婦の食事の評価

研究チームは、調査協力者の脂質摂取量を正確に評価するために、国民健康栄養調査プログラムが開発した、26項目の質問で構成される食物スクリーナーアンケート(DSQ)を利用した。その結果、157名の妊婦の摂取エネルギーに占める脂質の割合は、14〜55%でその平均値は33%であった。

霊長類を対象に行った先行研究では、妊娠中および授乳中の脂肪摂取比率が36%の高脂肪食群と13%の低脂肪食群との間で比較を行った結果、妊娠中と授乳中の高脂肪食は新生児の腸内フローラに重大な影響を与えるとともに、その影響が1年以上持続することを確認している。

研究チームは、先行研究や米国医学研究所が示した妊婦の脂肪摂取推奨値である20〜35%を参考に、調査協力者を脂肪摂取比率が43.1%の高脂肪食群と24.4%の対照群(ともにn=13)の2群に分け、それぞれの新生児の腸内フローラを検討した。

サンプルの収集と分析

両群の比較には、胎便と生後4〜6週間に採取した便を用いた。

胎便を分析するねらいは、新生児の誕生時に存在している可能性のある腸内フローラの種構成を明らかにすることである。また、生後4〜6週に達した便の分析は、授乳によるその後の腸内フローラの変化を明らかにするためである。

分析は次世代シークエンサーを用いて、細菌の分類にはもっとも標準的な16S rRNAの塩基配列を使用した。

分析から明らかになったこと

胎便の分析では

これまで胎児は羊膜に包まれて、無菌状態の子宮内で成長すると考えられてきた。動物実験では、妊娠期間を通じて感染の臨床的な証拠がない健康な胎盤と羊水に、細菌が存在することが実証されている。つまり、腸内フローラ形成は分娩前に既に始まっているのである。そして、同じ現象がヒトでも起こっている可能性があるのだ。

研究チームは胎便から、種レベルあるいは属レベルまでを含む103の分類群の同定に成功した。予想どおりヒトにおいても、少なくとも妊娠第3期には腸内フローラ形成が始まっていることが確認されたのである。そして腸内フローラには、高脂肪食群と対照群との間に明らかな差異が見出された。

妊娠中の高脂肪食の影響

高脂肪食の影響がもっとも明らかなのは、高脂肪食群では対照群と比較して、出生時も4〜6週間後も、Bacteroides属菌が少ないことである。

Bacteroides属菌が少ない状態が継続すると、新生児のエネルギー取得や早期の免疫確立に重大な影響を与える可能性がある。すなわち、Bacteroides属菌はミルクオリゴ糖とも呼ばれるラクチュロースを発酵を通して分解し、ヒトの主要なエネルギー源である短鎖脂肪酸を作り出すため、著しい成長期にある乳児にとっては、極めて重要な細菌なのである。

またBacteroides属菌が作り出す多糖類は、腸管免疫を支えているCD4糖鎖を増やすとともに抗炎症性物質であるインターロイキン-10の産生を活性化しているのである。

分析結果の解釈

今回の調査研究で、Bacteroides属菌の存在量の少なさと摂取エネルギーに占める脂質の割合との間には負の相関があることが確認された。しかし、Bacteroides属菌の存在量に対して、ほかの栄養素や生活スタイルなどとの関連を排除することはできないので、「摂取エネルギーに占める脂質の割合が高い」ことを原因として、「Bacteroides属菌の存在量が少ない」という結果に結びついたとするような、両者を単純な因果関係で結びつけることはできない。

また、この時期に確認された高脂肪食群の腸内フローラが、将来の健康に何らかの影響を与えるか否かも明らかにはされていない

しかしAagaard准教授は、この研究で用いた食物スクリーナーアンケート(DSQ)は、それまでの食習慣を踏まえて妊娠第3期中の母体の食事療法を決定するために、極めて有効であると考えている。

脂質の栄養所要量ー日米の推奨値

米国医学研究所は、妊婦・授乳婦の推奨脂肪摂取量を1日必要エネルギー量の20〜35%としている。わが国の厚生労働省は、妊婦・授乳婦の推奨値を20〜30%としており、両国間で大きな開きは無い。

Aagaard准教授の研究チームが見出した事実を、そのまま日本人に当てはめるられるか否かは検討の必要があるが、食生活の欧米化の進行に伴って脂質の摂取量が増加傾向にあるわが国でも、将来的には注目すべき課題になるかもしれない。

 

■参考文献