2017年9月13日

100時間以上かけてユーカリを消化するコアラの腸内細菌叢

コアラの消化管における食物の滞留時間は、草食で発酵を行う他の哺乳類と比べて最も長くて平均100時間、中には200時間という報告もあります。こんなに長い理由は、細菌による発酵が関係しているからです。

コアラのスローで効果的な消化管機能

消化物のうち、大きな粒子は、より速く消化管内を通過させることで消化効率を上げています。大きな粒子は、盲腸に滞留することなく、水の再吸収が行われる直腸に運ばれ、水分吸収の後、粗い質感の糞として排泄されます。コアラはめったに給水を行わないのですが、そんなコアラの水分保持の機能も、消化管が担っています。

一方、小さな粒子は、相対的に表面積が大きいため、細菌による発酵が行われやすいという特徴があります。発酵に時間をかけるため、こちらは長時間にわたって滞留します。

このように、コアラには、消化管内で食物の分解産物の大きさに応じた選別を行うメカニズムがあるのです。

コアラの大腸や盲腸で行われる後腸発酵で産生されるエネルギー量は少なく、その主な役割はむしろ、窒素の保持と再利用であると考えられています。ユーカリのような低窒素かつ低栄養な食糧を主食としている生物において、効率的な発酵は非常に重要な機能を担っているのです。

盲腸と結腸を中心に、コアラの中の細菌がいかにユーカリを消化するか、見ていきましょう。キーワードは、構造、特別な細菌、全体の細菌叢です。

コアラ対ユーカリ戦略1——細菌の住むミクロの構造

コアラの盲腸の上皮細胞は、構造的に他の哺乳類に類似しています。細胞側膜の膨張した細胞間隙および嵌合構造により、ウサギの膀胱上皮と同様の仕組みで水の再吸収を行います。さらに、消化管の管腔側からの栄養の吸収を行っていると考えられています。

特徴としては、管腔側には、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の桿菌、球菌およびアクチノマイセス(放線菌)様の微生物により形成される、柵状フリンジ構造の強力な接着があります。これにより、消化管壁に最大数の細菌を効果的に配置しています。

コアラの盲腸上皮に接着する細菌は、他の哺乳類(ラットやマウス、カニクイザルなど)でも報告されています。例えば、カニクイザルの盲腸におけるスピロヘータ門のように、上皮細胞をしっかりつかむ細菌もあります。この場合、上皮細胞の盲腸管腔側にある微絨毛や刷子縁の末端網は破壊され、腸の上皮構造は変化してしまいます。これは、コアラの盲腸上皮でグラム陽性の細菌が行うのと同様です。

コアラ対ユーカリ戦略2——特別な細菌

上皮が構造的には変化しない代わりに、上皮の管腔側表面にポリサッカライドからなるエンベロープなどの表面の高分子で接着する細菌もいます。これは、コアラの後腸にいるタンニン−タンパク複合体分解腸内細菌(T-PCDE)で見られる接着方法です。T-PCDEは、通性嫌気性グラム陰性の多形桿菌で、糞中からも発見されています。この細菌が、ユーカリ毒と深く関わっています。

ユーカリには、コアラにとって毒となるさまざな物質が含まれており、その一つが栄養摂取を阻害する濃縮タンニンです。以前は、青酸の毒性が影響するというのが通説でしたが、複数の研究の結果から、現在では青酸の影響はほとんどないと見なされています。むしろ、タンニンの阻害作用のほうが、重要な影響を与えると考えられているようです。

ガロタンニンなど、いくつかの加水分解型タンニンは、消化管前方での酸性加水分解をかわし、後腸に到達します。タンニンは、食餌性および内因性のタンパク質と複合体を形成し、タンパク質からの栄養吸収を阻害します。T-PCDEは名前のとおり、形成されたタンニン−タンパク複合体を分解することで、栄養源として貴重なタンパク質を救出し、利用すると考えられています。

救出されたタンパク質は、その後、アンモニアに分解されます。アンモニアは、窒素源として腸内細菌の増殖に利用されたり、肝臓で非必須アミノ酸に取り込まれたりするのです。アンモニアに分解され、窒素源として腸内細菌の増殖に利用されます。また、後腸で吸収されたアンモニアは、コアラにとって毒になるので、肝臓で尿素に解毒され、同時に非必須アミノ酸を作ります。

編集長より、同日17時25分訂正:アンモニアが肝臓で解毒されることを明記しました。

コアラ対ユーカリ戦略3——細菌叢

腸内細菌叢全体としては、内容物湿重量あたりの嫌気性細菌数は、盲腸で1.1 x 1010個、近位結腸で3.0 x 109個です。一方、好気性細菌数は格段に少なく、それぞれ9.7 x 106個、2.3 x 107個であり、嫌気性菌と好気性菌の割合は1150:1です。特に、グラム陽性桿菌が全体の61%で優占であり、最も多く見られた菌種はバクテロイデスBacteroides)属、ユーバクテリウム(Eubacterium)属、ペプトコッカス(Peptococcus)属、ペプトストレプトコッカスPeptostreptococcus)属、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属などであると推定されています。

同様に盲腸発酵を行うウマでは、グラム陰性桿菌および球菌が優占で、嫌気性菌もコアラの半分以下と菌数も異なります。同じ草食動物かつ後腸発酵を行う動物でも、コアラとウマでは、腸内細菌叢は大きく異なるということがわかります。

コアラの腸内の温度は、およそ36度。pHは、盲腸で6.5〜6.6、近位結腸で6.6と中性よりで、細菌の増殖や発酵に適した環境となっています。

消化管での発酵の主要生成物である短鎖脂肪酸を調べると、他の単胃草食動物の産生濃度の範囲には収まっていました。その濃度は、盲腸および近位結腸で上昇していましたが、他の後腸発酵動物に比べて非常に低い値でした。これについては、発酵速度が遅いことによると考えられています。in vitroの実験からも、これを支持する結果が得られているようです。

一口に後腸発酵を行っていると言っても、このように特殊な仕組み、特別な菌がコアラの消化管では機能しているのです。糞中に排泄された腸内細菌叢と併せて考えると、盲腸と近位結腸で機能する細菌叢のコアラならではのユニークさが、より浮き彫りになっているように思います。

参考文献

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