2017年10月17日

ハムスターからカンガルーの仲間まで、哺乳類を食糞と発酵で分類してみる

これまで、食糞をする動物と、その腸内細菌叢が行う発酵について複数紹介してきました。食糞も腸内発酵も、生物の世界では割とみられる現象だということが、徐々に浸透してきたのではないでしょうか。では、どれぐらい一般的な行動なのでしょうか。今回は、ほんの一部ですが、概要をご紹介します。

多くの小型から中型動物が食糞と発酵を行う

食糞をする生物といえば、ウサギ目が最もよく知られたグループです。

ウサギの食糞(前編)——なぜウサギは自分の糞を食べるのか

ウサギ目以外にも、コアラを含め、多くの小型〜中型(100 kg未満)の草食の動物たちが、この効果的な栄養摂取方法を採用しています。

これまで、胃より後ろの腸管で細菌叢による発酵を行い、栄養素、必要な元素、有用な細菌の再利用を行っている後腸発酵動物について、主にご紹介してきました。コアラもその一部です。

これらの動物たちは、消化管内で食物分解産物のサイズで選別するメカニズムを備えています。小型の食物粒子だけを盲腸に入れ、効果的な腸内発酵を可能にし、効率よく必要な栄養素を得るための特別な機能です。

100時間以上かけてユーカリを消化するコアラの腸内細菌叢

そして食糞、つまり糞の直接的な再摂取により、栄養素が効率的に吸収される仕組みや、親子間で菌を伝達することについても紹介してきました。その場合に食べられる糞は、見た目も成分も特別な糞であり、ただの排泄物とは異なるものです。

コアラの食生活と社会行動を決める食糞

食糞と発酵で動物を分類する

糞の形態や栄養的な差異の有無、糞の再摂取の有無、消化管内での食物分解産物の選別機能の有無、および発酵の行われる消化管部位によって、小型から中型の草食動物を機能的な面からおおまかに分類すると、体サイズと関連して、ある程度の傾向があるのではないかということも示唆されています。

成体を比較した場合、小型の動物ほど、糞の栄養的差異、食糞行動、食物分解産物のふるい分けメカニズム、盲腸内発酵(後腸発酵)がより多く行われています。そして、体サイズが大きくなるにつれて、食糞行動やふるい分けメカニズムがなくなるようです。特に、齧歯目や、ウサギの仲間である重歯目でこの傾向は顕著ですが、中には、カピバラのような中型でも食糞をする動物はいます。

そして、確かに、中型から大型の草食動物(ウシなどの反芻類や葉食の一部の霊長類など)の多くは、胃での細菌叢による前腸発酵を行っています。

このさまざまな体サイズの動物たちの、後腸発酵と食糞などの有り様についてご紹介します。

さまざまな小型から中型動物の腸内細菌叢のはたらきと食糞

小型のリングテイルポッサムは、大人も食糞をします。この場合、共生生物の取り込みだけではなく、栄養の摂取にも寄与しています。リングテイルポッサムは、ユーカリを食べる動物であり、コアラ同様に、盲腸でタンニン−タンパク複合体分解腸内細菌(T-PCDE)によるタンニン−タンパク複合体の部分的な分解が行われていることも報告されています。近縁種のフクロギツネでは、食糞はしませんが、盲腸での発酵は行われています。

さらに小型の動物においては、カンガルーネズミの一種(chisel tooth kangaroo rat)は、糞の4分の1が盲腸由来であり、日中採餌していない間、およそ8時間以上にわたって食糞をします。この盲腸糞には、窒素と水分が豊富に含まれています。ただ、その腸内細菌叢や発酵の有無、またその場所については、後腸と考えられていますが、推測の域を出ていないようです。

カリフォルニアハタネズミも、同様に糞の4分の1を摂取しますが、その時間は1時間から数時間の単位であり、彼らの昼夜絶え間ない採餌行動の特性が食糞行動にも反映されています。そして、盲腸だけではなく、前腸でも細菌叢による発酵を行っています。これに対して、昼行性のデグーは、主に夜間に食糞を行います。

身近な動物では、ハムスターも同様に、腸内で細菌叢による発酵を行い、栄養摂取のための食糞をします。ハムスターが糞を食べていても、驚くには値しないのです。その糞は、見た目は変わらないかもしれませんが、栄養学的には異なるものです。

小型から中型の、滑空する動物であるフクロモモンガは、コアラ同様、大人の食糞はありませんが、腸内に食物分解産物の選別メカニズムがあり、盲腸内で細菌による発酵を行っています。

このように、さまざまな動物が、腸内細菌叢のはたらきによる発酵を行っています。それによって生成された栄養素を、食糞や消化によって摂取しています。

コアラも反芻を行うらしい?

実は、コアラは反芻を行うという報告もあります。反芻とは、前腸発酵を行う動物で見られる行動で、咀嚼し、飲み込んだ後、胃内で時間をかけて発酵を行います。その間、口腔内へ吐き戻しをして、再度咀嚼するのです。これを繰り返す事により、食物の分解産物を細かくし、発酵の効率を良くします。

コアラで、胃内容物を再度咀嚼して胃に戻すことが観察されたとの報告はあるのですが、残念ながら動画や写真による具体的な報告はこれまでのところありません。さらなる研究報告が待たれます。

これまで後腸発酵動物について紹介してきましたが、同じような発酵を前腸(つまり胃)で腸内細菌叢により行う動物たちがいます。一般的には、ウシやキリンなどの大型動物や、霊長類のテングザルが行う発酵です。反芻は、これらの動物に特徴的なメカニズムです(ちなみにテングザルでは、反芻するようすが動画で報告されています)。

動物の内側には壮大なロマンが広がっている

脊椎動物哺乳類や有袋類という、異なる分類群に属する種でも消化システムが似ていたり、逆に同じ分類群の中でも、種によって消化システムが大きく異なっていたり、消化システムは多様です。にもかかわらず、腸内細菌叢の活動を、さまざまな方法で効果的に利用しているところは共通しているのです。腸内細菌叢を含めて、動物の内側を想像すると、なかなか壮大でロマンを感じるところがあります。

参考文献

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